14 章の構図は、画面の中に何をどう置くかの話でした。この章では、もう一歩手前の、カメラをどこに構えるかの選択を扱います。
カメラの高さと、被写体をどのくらいの大きさで写すかは、写真の印象を大きく変えます。それなのに、絞りやシャッター速度と違って、写真のデータには記録されません。意識していないと、いつも自分の目の高さから、いつも同じくらいの大きさで撮ってしまいます。
この章で扱う変化も、9 章と同じ原理で説明できます。ものの写る大きさは、カメラからの距離に反比例するという原理です。カメラの高さを変えると、被写体の頭と足のどちらがカメラに近いかが変わります。ショットサイズを変えると、撮影距離か焦点距離のどちらかが変わります。印象の違いは、その結果として生まれています。
カメラの高さ(Google 画像検索)#
カメラの高さを変えると、物理的には 2 つのことが変わります。
- 被写体の各部までの距離 — 高い位置からは頭が近く足が遠くなり、低い位置からは足が近く頭が遠くなります。近い部分ほど大きく写るので、体の比率が変わります
- カメラの向き — 被写体を画面に収めるために、カメラは下か上を向きます。向いた先にあるものが背景になるので、見下ろせば地面や床が、見上げれば空や天井が写ります
この 2 つから、3 つの高さの写り方が決まります。
- アイレベル — 被写体の目の高さから撮ります。顔のあたりはカメラとほぼ同じ距離で、比率の誇張が少なく写ります。背景は被写体の後ろにある景色がそのまま入ります。だから、被写体と見る人が対等な関係に見え、自然な写真になります
- ハイアングル — 上から見下ろして撮ります。頭が大きく、脚が短く写り、背景は地面や床で埋まります。だから、被写体は小さく、弱く、かわいらしく見え、周りの状況の中に置かれた存在として写ります
- ローアングル — 下から見上げて撮ります。脚が長く、頭が小さく写り、背景には空や天井が入ります。だから、被写体は大きく、力強く、堂々と見えます
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1.7m、レンズは 50mm に固定しています。ショットサイズを変えると、同じ大きさに写すための距離が変わります。カメラを低くして見上げると人物は大きく力強く、高くして見下ろすと小さく、周りの地面が広く写ります。
シミュレーションでカメラの高さを動かしてみてください。同じ人物、同じ距離でも、見上げるか見下ろすかで、人物の存在感がまったく変わります。人物写真で「なんとなく偉そう」「なんとなく頼りない」という印象の差は、たいていカメラの高さが作っています。以下で、その中身を順に見ていきます。
頭と足、どちらがカメラに近いか#
身長 1.7m の人の全身を、水平に 2m 離れた位置から撮るとします。2m は、24mm の横位置でおおよそ全身が収まる距離です。カメラは体のまん中(高さ 0.85m)を狙い、カメラの高さだけを変えます。
1.7m(7.4 頭身)の人を、水平に 2m 離れた位置から、体のまん中を狙って撮った画面です。4
枚とも全身が同じ高さになるように揃えてあります。破線はカメラと同じ高さ(画面の水平線)で、ハイアングルでは頭より上の画面の外にあります。カメラに近い側が大きく写るので、低いほど脚が長く、高いほど頭が大きく写ります。
| カメラの高さ | カメラの向き | 頭のてっぺんまで | 足元まで | 足元の写る倍率(頭を 1) | 写る比率 |
|---|---|---|---|---|---|
0.3m(ローアングル) | 15° 見上げる | 2.30m | 1.85m | 1.24 | 8.9 頭身 |
0.85m(腰の高さ) | 水平 | 2.00m | 2.00m | 1.00 | 7.4 頭身 |
1.6m(目の高さ) | 21° 見下ろす | 1.84m | 2.43m | 0.75 | 5.8 頭身 |
2.6m(ハイアングル) | 41° 見下ろす | 2.10m | 3.22m | 0.65 | 5.2 頭身 |
(距離はカメラの向いている方向に測ったもの。頭の高さを 23cm とし、実物は 7.4 頭身)
腰の高さから水平に撮ると、頭のてっぺんも足元もカメラから同じ 2m の奥行きにあり、同じ倍率で写ります。比率は実物どおりの 7.4 頭身です。
カメラを 2.6m まで上げると、頭までは 2.10m、足元までは 3.22m になり、足元は頭の 1.53 倍遠くなります。写る大きさは距離に反比例するので、足元のあたりは頭のあたりの 0.65 倍に縮んで写ります。頭は大きく、脚は先へ行くほど細く短くなり、比率は 5.2 頭身になります。5 頭身前後は子どもの体の比率に近い数字です。ハイアングルの人物が小さく、幼く見えるのは、この比率の変化が一因です。
逆に 0.3m まで下げると、足元のほうが近くなり、1.24 倍の大きさで写ります。脚は長く、頭は小さく写って 8.9 頭身になります。ファッション誌の写真のような、脚の長い、見上げるような比率です。
目の高さで全身を撮ると、もう見下ろしている#
表の 3 行目に注目してください。撮影者がふつうに立って、目の高さ(1.6m)から全身を撮ると、カメラは体のまん中を狙って 21° 下を向きます。それだけで比率は 5.8 頭身になり、実物の 7.4 頭身よりかなり頭が大きく、脚が短く写ります。全身を撮ると「なんだか寸詰まりに写る」という失敗の多くは、これが原因です。
全身を実物どおりの比率で撮りたいときは、カメラを体のまん中(腰)の高さまで下げて、水平に構えます。脚を長く見せたいときは、さらに低く構えて、少し見上げます。顔だけを撮るときは、顔の高さで構えれば水平になるので、この問題は起きません。
離れるほど、高さの影響は小さくなる#
比率が変わるのは、頭と足までの距離の比が 1 から離れるからです。被写体から離れるほど、頭と足の距離の差は撮影距離に比べて小さくなり、比は 1 に近づきます。9 章の「近くのものどうしの比は大きく変わり、遠くのものどうしの比はほとんど変わらない」と同じことです。
目の高さ(1.6m)から体のまん中を狙って全身を撮る場合で比べると、次のようになります。距離は、後で出てくるショットサイズの表で、それぞれの焦点距離の横位置でおおよそ全身が収まる距離です。
| 水平の距離 | 全身が収まる焦点距離(横位置) | カメラの向き | 足元までの距離の比(頭を 1) | 写る比率 |
|---|---|---|---|---|
2m | 24mm | 21° 見下ろす | 1.32 | 5.8 頭身 |
4.4m | 50mm | 10° 見下ろす | 1.07 | 7.0 頭身 |
7.4m | 85mm | 6° 見下ろす | 1.02 | 7.2 頭身 |
つまり、高さによる比率の変化は、近づいて広角で撮るほど強く、離れて望遠で撮るほど弱くなります。広角で寄ると、少しカメラを上げ下げしただけで頭身が大きく変わります。逆に、離れて望遠で撮っていれば、目の高さからでも比率はほとんど崩れません。高さが効かなくなるわけではなく、離れていても向きは変わるので、背景に何が入るかは高さで変えられます。
背景と水平線#
カメラの高さが決めるもう 1 つのものは、画面の水平線の位置です。カメラが水平を向いていてもいなくても、カメラと同じ高さにあるものは、すべて画面の水平線の上に並んで写ります。図の破線がそれで、腰の高さから撮れば腰を、0.3m から撮ればすねを、水平線が横切ります。
- 低く構えると — 水平線は被写体の足もとの近くを通り、被写体の大部分が水平線より上、つまり見る人の目の高さより上にそびえて写ります。背景には空や天井が入り、被写体の頭のまわりに余計なものが入りにくくなります。だから、被写体が見る人を見下ろす存在に感じられ、力強く見えます
- 高く構えると — 水平線は被写体の頭より上を通り、被写体の全体が見る人の目の高さより下に写ります。背景は地面や床で埋まり、被写体はその上に置かれた形になります。だから、見る人が被写体を見下ろしている関係になり、被写体は小さく、守られる存在に見えます。周りの状況を説明したいときにも使えます
背景を変えたいときにも、高さは有効なつまみです。目の高さでは背景に人や建物がごちゃごちゃと入る場面でも、しゃがんで見上げれば空だけを、上から見下ろせば芝生や路面だけを背景にできます。
極端な高さ#
- 俯瞰(真上から) — カメラが真下を向くと、センサーが地面と平行になり、地面の上のものはどれもほぼ同じ奥行きにあります。皿やテーブルの上の物は、位置によって大きさが変わらずに写ります。一方、高さの方向はカメラの向きと重なるので、画面にはほとんど現れません。だから、立体感がなくなり、物の配置が地図のような模様になります。料理やテーブルの上の物、上から見た街並みに使われます
- あおり(真下から) — 地面すれすれから大きく見上げると、カメラの向きと被写体の縦の線の角度が大きくなり、9 章の パースの倒れ(台形の歪み) と同じく、上に行くほど遠く小さく写ってすぼまります。だから、被写体はそびえ立つように見えます。建物や木の高さ、人物の迫力を強調します
広角で寄るほど脚が長く見える#
ローアングルで人物の全身を撮ると、カメラに近い足が大きく、遠い頭が小さく写るので、脚が長く見えます。ここまで見てきたとおり、この効果は距離が近いほど強くなるので、広角レンズで近づくほど強調されます。逆に、高い位置から広角で見下ろすと、頭が大きく脚が短く写ります。自撮り棒を高く掲げて撮る写真や、子どもを上から撮った写真で頭が大きく写るのは、この組み合わせです。
子どもと動物は目の高さで#
子どもや動物は背が低いので、大人が立ったまま撮ると、それだけで大きな見下ろしになります。身長 1m の子どもの全身を、1.5m 離れて大人の目の高さ(1.6m)から撮ると、体のまん中(0.5m)を狙ったカメラは 36° 下を向きます。上の表のハイアングルに近い角度です。頭が大きく、体が小さく写り、背景は床で埋まります。だから、相手は小さく、遠い存在に写ります。
しゃがんで相手の目の高さに下りると、比率は実物に近づき、背景には相手が見ているのと同じ高さの景色が入ります。だから、相手の世界に入り込んだような、親密な写真になります。
料理は 3 つの高さ#
料理の写真には、定番の高さが 3 つあります。どれも、高さの方向と配置の方向のどちらを画面に出すかの選択です。
- 真上(俯瞰) — 皿の配置と模様を見せる。高さは画面に出ないので、平らな料理、テーブル全体に向く
- 斜め 45° 前後 — 座って料理を見たときの目線。高さと奥行きの両方が斜めに画面へ出るので、立体感と配置の両方が伝わり、もっとも自然に見える
- ほぼ真横 — 高さのある料理(ハンバーガー、ケーキの断面)の重なりを見せる。奥行きの方向はカメラの向きと重なって消えるので、配置は伝わらない
ショットサイズ#
被写体をどのくらいの大きさで切り取るかを、ショットサイズ と呼びます。映画やテレビの撮影から来た呼び名で、写真でも同じように使われます。ショットサイズを決めているのは、画面の高さに、被写体のどこからどこまでが入るかです。
| ショットサイズ | 画面に入る範囲 | 画面の高さの目安 | 伝えるもの |
|---|---|---|---|
| ロングショット(引き) | 人物は小さく、周りの環境が大部分 | 7m など(決まりはない) | 場所、状況、人と環境の関係 |
| フルショット | 頭からつま先まで | 2.1m | 全身の姿勢、服装、動き |
| ミディアムショット | 腰から上 | 1.1m | 身ぶりと表情の両方 |
| バストショット | 胸から上 | 0.65m | 表情。人物写真の基本 |
| クローズアップ(寄り) | 顔、または顔の一部 | 0.38m | 感情、細部 |
| ディテール | 手、目、物の一部 | 0.2m 以下 | 質感、象徴的な細部 |
(身長 1.7m の人。画面の高さはシミュレーションの値で、上下に少し余白を含む)
画面の高さと撮影距離・焦点距離#
画面の高さに入る長さは、撮影距離と焦点距離で決まります。2 章で見たとおり、レンズの中心を通る光はまっすぐ進むので、被写体側とセンサー側に相似な三角形ができます。横位置のフルサイズでは、画面の高さはセンサーの短辺 24mm に対応するので、
画面の高さに入る長さ = 撮影距離 × 24 ÷ 焦点距離
です。たとえば 50mm で 1.35m 離れると、1.35 × 24 ÷ 50 ≒ 0.65m で、バストショットになります。この式を撮影距離について解くと、ショットサイズごとに必要な距離が出ます。
| ショットサイズ(画面の高さ) | 24mm | 50mm | 85mm | 135mm |
|---|---|---|---|---|
ロング(7m) | 7m | 15m | 25m | 39m |
フル(2.1m) | 2.1m | 4.4m | 7.4m | 11.8m |
ミディアム(1.1m) | 1.1m | 2.3m | 3.9m | 6.2m |
バスト(0.65m) | 0.65m | 1.35m | 2.3m | 3.7m |
顔と肩(0.45m) | 0.45m | 0.95m | 1.6m | 2.5m |
クローズアップ(0.38m) | 0.38m | 0.8m | 1.35m | 2.1m |
(フルサイズ、横位置。撮影距離は被写体からカメラまでのおおよその値)
「顔と肩」の行は、9 章の「顔と肩を収める距離」の表と同じ条件・同じ値です。9 章の表は、この表のバストとクローズアップの間の 1 行を取り出して、顔つきの変化を見たものだと考えてください。
縦位置で構えると、画面の高さにはセンサーの長辺 36mm が対応するので、同じ範囲を収める距離は表の 2/3 になります。50mm のフルショットなら、横位置の 4.4m に対して、縦位置では 4.4 × 2/3 ≒ 2.9m です。
この表から、撮影の現場で役に立つことがいくつか読み取れます。
- 部屋の中で全身を撮るには広角が要る —
85mmのフルショットには7.4mの距離が必要で、ふつうの部屋では下がりきれません。室内で全身を撮るなら24〜35mmになり、そのぶん近づくので、前の節のとおりカメラの高さで比率が崩れやすくなります - 同じショットサイズなら、焦点距離が遠近感を選ぶ — 同じバストショットでも、
24mmなら0.65m、135mmなら3.7mから撮ることになります。9 章で見たとおり、遠近感を決めているのは距離なので、顔つきと背景の写り方はこの距離で変わります - 同じ焦点距離なら、寄るほどボケる — 焦点距離と F 値が同じでも、寄るほど撮影倍率が上がり、被写界深度 は浅くなります(6 章)。
50mmf/2.8なら、フルショット(4.4m)の被写界深度は約1.3mありますが、バストショット(1.35m)では約12cmになります(許容錯乱円0.03mm)
ショットサイズで変わるもの#
シミュレーションのショットサイズを切り替えると、同じ人物でも「どこにいるか」「何をしているか」「どんな表情か」と、伝わることが変わっていきます。中で起きているのは、次の変化です。
- 顔の写る大きさ — 寄るほど、目や口もとの細かな動きが、見る人に読み取れる大きさで写ります
- 背景の量 — 引くほど画面に入る周りの範囲が広がり、場所や状況の情報が増えます。寄るほど背景は減り、被写界深度も浅くなって、背景の情報はぼけて読めなくなります
だから、寄るほど感情が近くなり、引くほど客観的で状況的になります。
ショットサイズを変える方法は、近づくか離れるか(距離)と、焦点距離を変えるか(画角)の 2 つです。上の表のとおり、同じショットサイズでも、近づいて広角で撮るか、離れて望遠で撮るかで、背景の写り方と人物の顔つきが変わります。カメラの高さによる比率の変化も、近づいて広角で撮るほど強くなります。ショットサイズを先に決め、次に「どこから撮るか(距離)」を決め、焦点距離はそれに従わせる、という順番で考えると、遠近感と比率を自分で選べるようになります。
被写体の向き#
被写体がカメラに対してどちらを向いているかでも、印象が変わります。ここでも中で起きているのは、被写体のどの面がカメラに向き、どの線が画面に出るかの違いです。
- 正面 — 顔の左右がほぼ同じ距離にあり、左右対称に写ります。奥行きの方向はカメラの向きと重なるので、鼻の高さや輪郭の奥行きは画面に出にくくなります。だから、被写体と見る人が向き合う、強くまっすぐな写真になり、証明写真のように記録的にもなります
- 斜め(顔をカメラから 45° ほど回す) — 顔の正面と側面の両方がカメラに向き、鼻の高さや頬の丸みが輪郭として画面に出ます。だから、顔の立体感が伝わり、人物写真でいちばんよく使われる向きになります
- 横顔 — 鼻・唇・あごの輪郭が、画面の中の 1 本の線として強調されます。顔の向きと視線が画面の横方向に流れるので、被写体が何かを見つめている、考えている印象になります
- 後ろ姿 — 表情が写らず、被写体の視線とカメラの向きがそろいます。だから、見る人は被写体と同じものを見ているように感じ、被写体の先にある景色が主役になります
視線の向きも印象を変えます。カメラを見ている目線は、見る人に直接語りかけます。視線を外すと、被写体の内面や、写真の外にある何かを想像させます。14 章で見たように、視線の先には余白を残すのが基本です。
何枚かで伝える#
1 枚の写真で全部を伝えようとすると、写真は説明的になりがちです。何枚かを組み合わせて見せるときは、ショットサイズとアングルを変えた写真を組み合わせると、場面が立体的に伝わります。
- 引き(ロング) — ここがどこで、どんな状況かを見せる
- 中間(ミディアム) — 人物が何をしているかを見せる
- 寄り(クローズアップ) — 表情や手もとの細部を見せる
ショットサイズごとに伝わる情報が違うので、3 つを並べると、場所・行動・表情の情報が 1 枚ずつに分かれて届きます。映画やドキュメンタリーで場面が切り替わるときに使われる順番で、写真のアルバムや記事、SNS の複数枚の投稿でも同じように使えます。旅行やイベントでは、意識してこの 3 つのサイズを撮り分けておくと、あとで並べたときに流れのある組み写真になります。