本文へ移動
写真のしくみ
  1. 序 はじめに
  2. 01 カメラという装置
  3. 02 レンズ
  4. 03 センサーと画質
  5. 04 ピントとオートフォーカス
  6. 05 露出と段
  7. 06 絞りと被写界深度
  8. 07 シャッターと時間
  9. 08 測光とヒストグラム
  10. 09 焦点距離と遠近感
  11. 10 自然光
  12. 11 ストロボと人工光
  13. 12 色
  14. 13 RAW 現像とレタッチ
  15. 14 構図
  16. 15 アングルとショットサイズ
  17. 16 ポートレート
  18. 17 風景
  19. 18 夜景と星
  20. 19 物撮りと料理
  21. 20 スナップ
  22. 21 動きもの

第 4 部 光

11 章 ストロボと人工光

光を自分で作ると、硬さも方向も強さも思いどおりになります。ストロボの明るさの決まり方、シャッターとの関係、光を柔らかくする道具、そして複数の光で人物を照らす組み立て方を扱います。

光の一本道のうち、この章の範囲

  1. 光 (この章で扱う)
  2. レンズ
  3. 絞り
  4. シャッター (この章で扱う)
  5. センサー
  6. 現像

この章でわかること

  • 定常光とストロボの違い
  • ガイドナンバーと距離から、ストロボの明るさを見積もる方法
  • ストロボの光と周りの光が、別々の露出として写る仕組み
  • シンクロ速度、ハイスピードシンクロ、後幕シンクロ、スローシンクロ
  • バウンスとモディファイアで光を柔らかくする方法
  • キー・フィル・リムの役割と、ライティング比・ライティングパターン
この章の見出し(7)

10 章では、太陽と空の光を読み、選ぶ方法を扱いました。この章では、光を自分で作ります。人工の光を使えば、10 章で見た硬さ・方向・強さを、すべて自分で決められます。

定常光とストロボ#

人工の光には、2 つの種類があります。

定常光(LED ライトなど)ストロボ(フラッシュ)
光り方点けている間ずっと光る数百〜数万分の 1 秒だけ、一瞬強く光る
光の見え方撮る前に目で見て確かめられる撮ってみるまで見えない(モデリングランプで目安は見られる)
強さ弱い。日中の屋外では負けやすいとても強い。日中の太陽にも対抗できる
動きの止め方シャッター速度で決まる発光の短さで止まる
動画使える使えない

定常光 は、見たままの光で撮れるので、ライティングを学びはじめるのに向いています。ストロボ は、小さな本体から太陽に負けないほどの光を一瞬で出せるのが強みです。光っている時間がとても短い(1/1000s 〜 1/10000s 程度)ので、動いているものも止まって写ります。光る時間は発光量を下げるほど短くなり、フル発光では 1/1000s より長くなることもあります。大型のストロボをフル発光させると 1/300s 前後になる機種もあるので、動きを止めたいときは発光量を抑えて使います。

ストロボの明るさ#

ガイドナンバー#

ストロボの明るさは、ガイドナンバー(GN)という数で表されます。ふつうは ISO 100 のときの値で示します。

ガイドナンバー = 被写体までの距離(m)× F 値

GN 40 のストロボを最大の強さで光らせると、5m 先の被写体が f/8 で適正になります。10m 先なら f/4、2.5m 先なら f/16 です。距離が 2 倍になると F 値が半分(2 段明るく)になるのは、10 章の逆二乗則そのものです。ISO を 2 段上げて ISO 400 にすると、同じ F 値で 2 倍の距離まで届きます。

TTL とマニュアル#

ストロボの強さの決め方は 2 つあります。

  • TTL 調光 — 撮影の直前に弱く予備発光し、その反射をカメラが測って、本発光の強さを自動で決めます。距離が変わり続けるイベントやスナップ向き。強さは 調光補正 で調整します
  • マニュアル発光 — 強さを 1/1(フル)、1/2、1/4…と自分で決めます。1 段ずつの刻みです。光と被写体の距離が決まっているスタジオや、結果を毎回そろえたい撮影向き

TTL は 8 章の測光と同じく「平均を中間グレーに」寄せようとするので、白い服や黒い背景で外れることがあります。そのときは調光補正で直します。

2 つの露出が 1 枚に写る#

ストロボを使った写真には、ストロボの光で写った部分と、周りの光(環境光)で写った部分が重なっています。この 2 つは、それぞれ別のつまみで決まります。

何で決まるか
ストロボの光で写る明るさ絞り・ISO 感度・ストロボの強さ・距離
環境光で写る明るさ絞り・ISO 感度・シャッター速度

ストロボの光は一瞬で終わるので、シャッターをどれだけ長く開けていても、ストロボの光で写る明るさは変わりません。シャッター速度が効くのは環境光のほうだけです。

この性質を使うと、被写体の明るさはストロボで、背景の明るさはシャッター速度で、別々に決められます。

  • シャッター速度を速くすると、背景(環境光)だけが暗くなり、ストロボで照らした被写体が浮かび上がります
  • 遅くすると、背景が明るく写り、周りの雰囲気がそのまま残ります

スローシンクロ(Google 画像検索)#

夜景を背景に人物をストロボで撮ると、人物だけが明るく、背景が真っ黒に落ちることがよくあります。原因は 2 つです。ストロボの光は近くの人物にしか届かないこと(逆二乗則)と、シャッター速度が速すぎて、背景から届く弱い光を溜める時間がないことです。

直せるのは後者です。シャッター速度を 1/15s や 1/4s まで遅くすると、ストロボが光り終わったあとも露光が続き、そのあいだに夜景の光が溜まります。これが スローシンクロ です。人物はストロボの一瞬の光で止まり、背景は長い露光で明るく写ります。手ブレしやすいので、カメラはしっかり構えるか、三脚を使います。

シャッターとの関係#

シンクロ速度#

7 章で見たとおり、シャッター速度が速いと、2 枚の幕の間の細いスリットだけが画面を走ります。ストロボは一瞬で光り終わるので、スリットの状態で光らせると、そのとき開いていた帯の部分しか照らせません。

画面全体が一度に開く最も速いシャッター速度が シンクロ速度 で、多くのカメラで 1/200s〜1/250s です。ストロボを使うときは、ふつうはこれより遅いシャッター速度で撮ります。

ストロボの発光とシャッター幕のタイミング シンクロ速度 1/250s それより速い 1/1000s ハイスピードシンクロ 1/1000s 後幕シンクロ 1/4s 時間 → 実線: 先幕 破線: 後幕 縦の帯: 発光
斜めの線は、幕が画面の上から下へ走る様子です。シンクロ速度より遅ければ、画面全体が開いている瞬間があり、そこで一瞬光れば全体が照らされます。速いと全体が開く瞬間がないので、一瞬の光ではそのときのスリットの帯しか照らせません(2 段目)。ハイスピードシンクロは、幕が走るあいだ細かく光り続けて全体を照らします。

ハイスピードシンクロ#

晴れた屋外で、絞りを開けて背景をぼかしながらストロボを使いたいとき、シャッター速度はシンクロ速度を超えてしまいます。そこで、幕が走っているあいだ、ストロボをとても短い間隔で連続発光させ、まるで定常光のように光らせ続ける機能があります。これが ハイスピードシンクロ(HSS)です。スリットがどこにあっても光が当たるので、1/8000s でもストロボが使えます。そのかわり、1 回あたりの光は弱くなり、届く距離は短くなります。

先幕シンクロと後幕シンクロ#

遅いシャッター速度でストロボを使うとき、露光のはじめに光らせるか、終わりに光らせるかを選べます。

  • 先幕シンクロ(ふつうの設定)— 露光のはじめに光る。動いている被写体は、はじめの位置にストロボで止まり、そのあとの動きが環境光で流れて写ります。軌跡が被写体の前に伸びるので、後ろ向きに進んでいるように見えます
  • 後幕シンクロ — 露光の終わり(後幕が走り出す直前)に光る。動きの軌跡が流れた最後に被写体が止まって写るので、軌跡が被写体の後ろに伸び、自然な進行方向に見えます

走る人や車をストロボと遅いシャッターで撮るなら、後幕シンクロにします。

光を柔らかくする#

直射の問題#

カメラの上に付けたストロボを、被写体にまっすぐ向けて光らせると、光源は小さく、方向は真正面になります。10 章で見た「硬い光」と「順光」の組み合わせで、次のような写り方になります。

  • 影がくっきりと被写体の真後ろの壁に落ちる
  • 顔に立体感がなく、平らにてかって見える
  • 逆二乗則で、被写体だけが明るく背景は暗く落ちる
  • 瞳の奥の網膜で光が反射し、目が赤く写る(赤目)

バウンス#

いちばん簡単に光を柔らかくする方法は、ストロボを天井や壁に向けて光らせ、跳ね返った光で照らすことです。これが バウンス です。天井や壁が、見かけの大きな面光源になります(10 章)。

  • 天井バウンス — 上から柔らかい光が回ります。目元に影が落ちやすいので、ストロボの小さな白い板(キャッチライト板)を出して、少しだけ正面にも光を返します
  • 壁バウンス — 横の壁に向けると、窓の光のようなサイド光になり、立体感が出ます

壁や天井の色は、そのまま光の色になります。木目の天井なら黄色く、緑の壁なら緑がかります。天井が高すぎたり黒かったりする場所では、バウンスは使えません。

カメラから離す#

ストロボをカメラから離して、別の位置から光らせると、光の方向を自由に決められます。カメラとストロボは無線や光のパルスでつなぎます。これが オフカメラ です。10 章で見た光の方向(サイド光、半逆光など)を、ストロボで作れるようになります。

モディファイア#

ストロボや定常光の前に付けて、光の大きさや広がりを変える道具が モディファイア です。

モディファイア見かけの大きさ光の性質
素のストロボ(反射傘)とても小さい硬い。くっきりした影
ビューティーディッシュ中くらい中心がややくっきり、縁は柔らかい。肌に張りが出る
アンブレラ大きい柔らかく、広く散らばる。手軽
ソフトボックス大きい柔らかく、向きを制御しやすい。四角いキャッチライト
ストリップボックス細長い縦に長い柔らかい光。輪郭を縁取るリムライトに
グリッド変わらない光の広がりを絞り、狙った場所だけを照らす
スヌート小さい光を筒で絞り、スポットライトのように小さな範囲だけを照らす

モディファイアは、大きくするほど、そして被写体に近づけるほど柔らかくなります。10 章で見た原則は、自然光でも人工光でもまったく同じです。

複数の光で照らす#

読み込み中…

パターン — キーとフィルの比 — キーの見かけの大きさ —
8:1(3 段)
左(狭い画面では上)がカメラから見た写り、右(下)が同じセットを斜め上から見下ろした様子です。被写体は、デッサンの練習に使われるような白い石膏像にしています。肌の色や質感がないぶん、光の方向と影の形だけがそのまま見えます。キーライトは顔から 1.2m の距離に置いています。パターンはキーライトの方向と高さだけを変えたもので、俯瞰の図でキーライトが動くのに合わせて、写りでは鼻の影の形が変わります。モディファイアを替えると、光源の見かけの大きさが変わり、影の縁の硬さが変わります。フィルを弱くする(比を大きくする)ほど、影の側が暗く落ちて立体感が強くなります。どちらのビューも、ドラッグすると視点を回せます(タッチでは横になぞります)。照明はセットに置いたまま動かないので、写りの側を回すと、同じ光を別の角度から撮ったときに影の形がどう変わるかがわかります。ダブルクリックで元の視点に戻ります。 石膏像の 3D データ: Jean-Antoine Houdon「George Washington」(1786 年ごろ、石膏)、National Portrait Gallery, Smithsonian Institution(Smithsonian 3D、CC0)を軽量化して使用しています。

光の役割#

人物撮影の照明は、役割ごとに名前の付いた光の組み合わせで考えます。

  • キーライト — 主役の光。顔の形と影の位置を決めます。いちばん明るい光です
  • フィルライト — キーライトが作った影を、どれだけ明るく起こすかを決める光。影を落とさないように、大きく柔らかく、カメラの近くに置きます。レフ板(10 章)もフィルの役を担います
  • リムライト — 後ろから輪郭を縁取る光。暗い背景から被写体を切り離します。髪だけを照らすものは ヘアライト と呼びます
  • 背景の光 — 背景紙や壁を照らして、背景の明るさを被写体と別に決めます

ライティング比#

光の当たっている側(キーライト+フィル)と、影の側(フィルだけ)の明るさの比を ライティング比 と呼びます。影の側が、光の当たっている側に比べてどれだけ暗いかを示します。

比段数の差写り方
2:11 段影が淡く、明るく柔らかい。商業写真、ハイキー
4:12 段ほどよい立体感。一般的なポートレート
8:13 段影が深く、ドラマチック
フィルなし—影の側はほぼ黒。ローキー

シミュレーションで「キー:フィル」を動かすと、影の深さだけが変わり、影の形(キーライトの位置)は変わらないことが分かります。

ライティングパターン#

キーライトを顔に対してどの方向・高さに置くかで、鼻の影の形が変わり、顔の印象が変わります。代表的な 4 つには名前が付いています。

  • バタフライライティング — キーライトをカメラの真上から当てます。鼻の真下に、蝶のような小さな影ができます。頬骨が強調され、華やかで端正な印象。美容・ファッション写真の定番です
  • ループライティング — キーライトを少し横(30° ほど)へずらします。鼻の影が頬の方へ小さく輪のように落ちます。もっとも汎用的で、多くの顔に似合います
  • レンブラントライティング — さらに横(45° ほど)・高めに置きます。鼻の影と頬の影がつながり、影の側の頬に小さな三角形の光が残ります。画家レンブラントの肖像画に由来する、陰影の深い重厚な光です
  • スプリットライティング — 真横から当てます。顔の半分が明るく、半分が影になります。強く、緊張感のある印象です

人工光の色#

定常光の色は、照明の種類で大きく違います。電球色の照明は 2700〜3000K のオレンジ、昼白色の照明は 5000K 前後です。違う色の光が混ざると、ホワイトバランスでは片方しか直せません(12 章)。

ストロボの光は太陽光に近い 5500K 前後なので、電球色の部屋でストロボを使うと、ストロボの当たった人物は白く、背景は黄色く写ります。ストロボの前に色付きの薄いフィルム(カラーフィルター(ジェル))を付けて、ストロボの色を部屋の照明に合わせる方法があります。オレンジのジェル(CTO)を付けてホワイトバランスを電球に合わせれば、人物も背景も自然な色になります。

LED 照明には、色の再現の正確さを示す 演色性(演色評価数、Ra)という指標があります。100 に近いほど太陽光に近く自然な色で写ります。撮影用には、95 以上のものを選ぶと安心です。