構図 は、画面の中に何をどこへ置くかの設計です。ここまでの章のような物理法則の話ではありませんが、決めていることは具体的な 3 つの判断に分けられます。
- 何を入れて、何を外すか — 立ち位置、焦点距離、ボケで決まる
- どこに置くか — 主役と、それ以外の要素の位置
- どの枠で切るか — 縦横比と、枠の端をどこに置くか
構図の定石は、この判断を迷ったときの出発点です。守るべき規則ではありませんが、なぜそう見えるのかを知っておくと、外すときにも意図を持って外せます。
まず主役を決めて、引き算する#
構図でいちばん大事なのは、1 枚の写真の主役を 1 つに決めることです。主役が決まれば、それ以外のものはすべて「主役を見せるために、入れるか外すか」で判断できます。
写真は、目で見ているときより多くのものが写り込みます。目は見たいものだけに注意を向けますが、カメラは画面の中のすべてを同じように記録するからです。電線、看板、ゴミ箱、通りすがりの人。撮る前に、主役以外に何が入っているかを画面の端から順に確かめてみてください。
余計なものを外す方法は、ここまでの章に出てきました。
- 立ち位置を変える — 一歩横に動くだけで、背景に入るものが変わります
- 寄る — 主役を大きく写せば、ほかのものは画面から出ていきます
- 望遠で背景を絞る — 背景の写る範囲が狭くなります(9 章)
- ボケで背景を溶かす — 背景が読めなくなります(6 章)
- カメラの高さを変える — 見下ろせば地面が、見上げれば空が背景になります(15 章)
視線はどこへ向かうか#
写真を見る人の視線は、画面の中をでたらめに動くわけではありません。おおむね次のものへ引き寄せられます。
- 周りより明るいところ
- くっきりしているところ(ピントの合っているところ)
- 人の顔、とくに目
- 周りと色が違うところ、鮮やかなところ
- 大きいもの、手前にあるもの
主役がこれらの条件を満たすように撮ると、写真を見た人の視線は自然に主役へ向かいます。逆に、主役より明るいものや鮮やかなものが画面の端にあると、視線はそちらへ逃げてしまいます。現像で主役の周りをわずかに暗くする(13 章の部分補正、2 章の周辺減光)のも、この性質を使っています。
主役をどこに置くか(Google 画像検索)#
下のシミュレーションで、横長の景色から枠を切り取ってみてください。同じ景色でも、主役をどこに置くかで写真の印象が変わります。
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三分割#
三分割法 は、画面を縦と横に 3 等分する線を引き、その線の上や交点に主役や水平線を置く定石です。
主役を中央から外すと、画面の中に主役と余白の対比が生まれ、視線が主役と余白の間を行き来して、写真に動きが出ます。水平線を画面の中央ではなく上か下の 3 分の 1 に置くと、空と地面のどちらが主役なのかがはっきりします。空が美しければ水平線を下に、地面の模様が面白ければ上に置きます。
多くのカメラは、ファインダーや背面の液晶に三分割の線(グリッド)を表示できます。
黄金比#
黄金比(約 1:1.618)で画面を分ける線は、三分割の線より少し中央寄りにあります。シミュレーションで三分割と黄金比を切り替えてみると、違いはわずかです。2 つは成り立ちの違う分け方ですが、線の位置が近いので、ふだんは三分割で代用して十分です。
日の丸(中央)#
主役を画面のまん中に置く構図を、日本では日の丸構図と呼びます。三分割の逆で、動きは少なくなりますが、主役が強く、まっすぐに伝わります。
- 主役の存在感をそのまま見せたいとき(正面を向いた人物、商品)
- 周りに余計なものがなく、余白が主役を囲んでいるとき
- 正方形(1:1)の画面のとき
「日の丸は初心者の構図」と言われることがありますが、中央に置くことが悪いのではなく、何も考えずに中央に置いてしまうことが問題になりやすい、というだけです。
対称#
画面の中央の線を境に、左右(または上下)が鏡写しになるように撮るのが 対称 です。建物の正面、水面に映った景色、まっすぐ続く道で使われます。静かで安定した、整然とした印象になります。
対称の構図は、中途半端にずれていると「失敗」に見えます。カメラを水平・垂直に正確に合わせ、中央の線をぴったり画面の中央に置きます。
対角線#
主役や線を画面の対角線に沿って置くと、斜めの動きと奥行きが生まれます。水平・垂直の線が安定を感じさせるのに対して、斜めの線は動きや緊張を感じさせます。
線で視線を導く(Google 画像検索)#
リーディングライン は、画面の中の線を使って、視線を主役へ運ぶ置き方です。道、線路、川、柵、壁の継ぎ目、影など、まっすぐなものでも曲がったものでも使えます。
- 画面の端(とくに手前の下の隅)から始まり、主役に向かって伸びる線は、視線を主役まで連れていきます
- 奥へ向かって集まっていく線(消失点へ向かう線)は、強い奥行きを作ります。広角レンズで近づいて撮ると、線の集まり方が強調されます(9 章)
- S 字に曲がる線(川、道)は、視線をゆったりと画面の奥へ導き、柔らかい印象になります
シミュレーションで、道の線が歩く人や灯台に向かうように枠を置いてみてください。
余白#
余白 は、意図して何も置かない領域です。主役の周りに余白があると、主役が際立ち、静けさや広がりが生まれます。
人や動物、乗り物のように「向き」のあるものは、向いている方向に余白を残すのが基本です。視線の先や、進む先に空間があると、自然で落ち着いて見えます。逆に、背中側に余白を取って、向いている方向を画面の端に詰めると、窮屈さや不安、何かから離れていく印象になります。これも、意図して使えば表現になります。
人物の頭の上の余白は、多すぎると人物が沈んで見え、少なすぎると窮屈に見えます。目の高さを、画面の上から 3 分の 1 あたりに置くのが目安です。
前景・中景・背景#
写真は平面ですが、画面の中に奥行きの違うものを重ねると、立体感が生まれます。
- 前景 — 手前にあるもの。足元の花、岩、手すり
- 中景 — 主役
- 背景 — 遠くの山、空、街並み
風景写真で、遠くの山だけを撮ると平板になりがちです。手前に岩や花を入れると、手前から奥への距離が感じられるようになります。広角レンズで前景に近づくと、前景が大きく写り、奥行きがさらに強調されます(9 章・17 章)。
前景をぼかして画面の縁に入れる方法(6 章の前ボケ)もあります。
フレーミング#
手前にあるもの(窓、門、木の枝、トンネルの出口)で主役を囲む方法を フレーミング と呼びます。写真の枠の中に、もう 1 つ枠を作るわけです。視線が主役に集まり、のぞき込むような奥行きが生まれます。
パターンと繰り返し#
同じ形の繰り返し(窓の並び、並木、瓦屋根、波)は、それだけで画面にリズムを作ります。望遠で切り取ると、繰り返しが画面いっぱいに広がって模様のようになります(9 章の圧縮)。
繰り返しの中に 1 つだけ違うもの(1 つだけ明かりのついた窓、1 本だけ色の違う傘)があると、そこに視線が集まり、主役になります。
水平と垂直#
水平線や建物の柱がわずかに傾いていると、写真全体が不安定に見え、「失敗」の印象になります。カメラの水準器(電子水準器)やグリッドを使って、水平線はまっすぐに、建物の縦の線は垂直に合わせます。撮ったあとで、現像で傾きを直すこともできます(13 章)。
逆に、カメラを大きく傾けて撮ると、不安定さや緊張感、動きを表現できます。傾けるなら、はっきりと(10° 以上)傾けると意図が伝わります。わずかな傾きは、意図ではなく失敗に見えます。
縦横比と、縦位置・横位置#
アスペクト比 は、写真の横と縦の比です。比が変わると、同じ主役でも収まりのよい置き方が変わります。
| 縦横比 | 使われ方 | 印象 |
|---|---|---|
| 3:2 | デジタル一眼の標準(フィルムの 35mm 判と同じ) | 汎用的。横位置で広がり、縦位置で高さ |
| 4:3 | スマートフォン、マイクロフォーサーズ | 3:2 より正方形に近く、まとまりやすい |
| 1:1 | 中判フィルム、SNS | 中央が強い。対称や日の丸と相性がよい |
| 4:5 | SNS の縦長の投稿 | 人物が収まりやすい |
| 16:9 | 動画、ディスプレイ | 横の広がり。映画のような印象 |
カメラを縦に構える縦位置は、人物の全身、高い建物、滝のように縦に長いものに向いています。横位置は、風景の広がりや、人物と周りの環境を一緒に見せるのに向いています。迷ったら、両方撮っておくのが確実です。
切ってはいけない場所#
写真の枠の端は、何かを「切る」線でもあります。切る場所によっては、不自然に見えます。
- 関節で切らない — 人物を手首、足首、ひざ、ひじのちょうど上で切ると、体が切断されたように見えます。関節と関節の間(太ももの途中、腕の途中)で切ります
- 頭から何かを生やさない — 背景の電柱や木が、人物の頭から生えているように見える位置に気をつけます。少し横に動けば避けられます
- 端に何かがかからないようにする — 画面の端にわずかにかかった物は、目が気になって引き寄せられます。入れるならはっきり入れ、外すならしっかり外します
- 線で首や頭を切らない — 水平線や建物の線が人物の首や頭を横切ると、そこで体が分断されて見えます