レンズを付け替えたり、ズームリングを回したりすると、写る範囲が変わります。同時に、遠くのものが大きく見えたり、奥行きが詰まって見えたりもします。この 2 つの変化はいつも一緒に起きるので、両方ともレンズのせいだと思われがちです。
この章の結論を先に書くと、レンズが決めているのは写る範囲だけで、奥行きの見え方を決めているのは被写体との距離です。この 2 つを混ぜずに扱えるようになると、撮りたい絵に対して「どこに立って、何 mm で撮るか」を自分で組み立てられるようになります。
焦点距離と画角(Google 画像検索)#
2 章で見たとおり、焦点距離 が長いほど、センサーの上に大きく引き伸ばされた像ができます。センサーの大きさは決まっているので、大きく写るほど、写る範囲は狭くなります。この範囲を角度で表したものが 画角 です。
| 焦点距離 | 水平画角 | 呼び方 | 写り方の目安 |
|---|---|---|---|
14mm | 104° | 超広角 | 部屋全体、目の前の景色のほぼすべて |
24mm | 74° | 広角 | 広い風景、環境ポートレート |
35mm | 54° | 広角 | スナップ。少し広い、自然な視野 |
50mm | 40° | 標準 | 目で注目して見ている範囲に近い |
85mm | 24° | 中望遠 | 人物の上半身。背景が整理される |
135mm | 15° | 中望遠 | 離れた人物、風景の一部の切り取り |
200mm | 10° | 望遠 | スポーツ、遠くの被写体 |
400mm | 5° | 超望遠 | 野鳥、競技場の向こう側 |
(フルサイズ。画角は横方向)
このサイトでは、85mm〜135mm を中望遠、それより長いもの(おおむね 200mm 以上)を望遠と呼びます。呼び方の境目はメーカーや本によって少しずつ違うので、目安として読んでください。
焦点距離が 2 倍になると、画角はおおむね半分になり、写る範囲の幅も半分になります。
人の目に近いのは何 mm か#
50mm が「人の目に近い」と言われるのは、50mm で撮った写真を、ふつうの距離で見たときに、遠近感が実物に近く感じられるからです。人の視野そのものは 180° 近くありますが、はっきり見えている範囲はずっと狭く、注目している範囲は 50mm 前後の画角に近いと言われます。一方、ぼんやりと周りまで含めた「見えている気がする範囲」は 35mm や 28mm に近く、スナップ用のカメラにこのあたりの焦点距離が多いのはそのためです。
立ち位置と画角は別のつまみ#
焦点距離を変えると、2 つのことが同時に起きがちです。画角が変わり、そして撮影者は被写体を同じ大きさに写そうとして、無意識に立ち位置を変えます。広角に替えたら近づき、望遠に替えたら下がる。この 2 つが同時に起きるために、焦点距離の効果と距離の効果が混同されてしまいます。
下のシミュレーションは、その 2 つを分けて並べたものです。焦点距離のスライダーは 1 本で、両方の画面に同じ値が入ります。
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A(被写体の大きさを固定) では、焦点距離を伸ばすとカメラが後ろへ下がります。人物の写る大きさは変わりませんが、背景の写る範囲が狭まり、奥の柱や建物が大きく写ります。奥行きが詰まって見えます。
B(立ち位置を固定) では、カメラは動きません。焦点距離を伸ばすと画面全体が単に拡大され、人物と背景の大きさの関係は、最初から最後まで変わりません。B の画面のまん中を切り取って拡大すれば、どの焦点距離の B の画面とも同じ絵になります。
つまり、A で起きた背景の変化を作ったのは焦点距離ではなく、カメラが後ろに下がったという事実のほうです。
なぜ距離で遠近感が変わるのか#
ものの写る大きさは、カメラからの距離に反比例します。2m 先の人物と 20m 先の建物なら、距離の比は 10 倍です。カメラが 18m 下がって、人物まで 20m、建物まで 38m になると、比は 1.9 倍にまで縮まります。人物を同じ大きさに写すために望遠に替えれば、建物は人物に対して 5 倍ほど大きく写ります。
近くのものどうしの距離の比は、カメラが少し動くだけで大きく変わります。遠くのものどうしの比は、ほとんど変わりません。遠近感は、この比で決まっているのです。
顔つきは距離で変わる(Google 画像検索)#
この章の内容がいちばんはっきり出るのが、人の顔です。顔を同じ大きさで写すという条件を置くと、焦点距離ごとに撮影距離が決まります。
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45cm ぶん)。焦点距離が短いほどカメラは顔に近づくので、カメラに近い鼻は大きく、遠い耳は頭の陰に隠れて小さく写ります。右の薄い線は
135mm で撮った同じ顔です。
鼻の先は、顔の面より 2〜3cm カメラに近いところにあります。2.5m 離れて撮れば、その差は距離の 1% にすぎず、鼻は顔の面とほぼ同じ倍率で写ります。0.45m まで近づけば、差は 6% を超え、鼻だけが大きく、耳は頭の陰に隠れて写ります。
| 焦点距離 | 顔と肩を収める距離 | 顔の写り方 |
|---|---|---|
24mm | 約 0.45m | 鼻が大きく、顔の奥行きが強調される。輪郭が細く見える |
50mm | 約 0.95m | わずかに奥行きが強調される |
85mm | 約 1.6m | 自然な立体感 |
135mm | 約 2.5m | 平らで穏やか。背景は狭く整理される |
「85mm は人物向き」というのは、レンズの光学的な美点の話ではありません。その画角で顔を適切な大きさに収めようとすると、ちょうど顔が自然に見える距離に立つことになる、という距離の話です。スマートフォンの自撮りで顔の印象が実物と違って見えるのも、腕の長さ(0.5m 前後)という距離が原因です。
クロップファクターと 35mm 換算#
センサーがフルサイズより小さいと、同じレンズでも写る範囲が狭くなります。センサーが像の中央部分だけを受け取るからです。この比が クロップファクター で、APS-C なら約 1.5 倍、マイクロフォーサーズなら 2 倍です(3 章)。
35mm 換算 は、実際の焦点距離にクロップファクターを掛けて、「フルサイズなら何 mm と同じ範囲が写るか」に直した値です。APS-C に 35mm を付ければ 52mm 相当、マイクロフォーサーズに 25mm を付ければ 50mm 相当になります。スマートフォンのカメラの焦点距離も、多くはこの換算値で表示されています。
注意したいのは、換算でそろうのは画角だけだということです。
- 遠近感 — 撮影距離で決まります。同じ画角で同じ大きさに写すなら、立つ場所も同じなので、遠近感は同じです
- ボケと被写界深度 — 同じ画角・同じ F 値では、センサーが小さいほどボケは小さくなります。F 値にもクロップファクターを掛けると、フルサイズで同じボケになる値が分かります(6 章の等価換算)
単焦点とズーム#
単焦点 は焦点距離が固定で、ズーム は焦点距離を変えられます。単焦点とズームの差は、写りよりも、明るさ・大きさ・考える順番に表れます。
単焦点は画角を変えられないので、構図を変える手段が立ち位置しかありません。これは不便ですが、この章の内容からすると理にかなってもいます。先に立ち位置で遠近感を決め、画角はそれに従う、という順番が自然に身につくからです。
ズームは立ち位置を変えずに画角を変えられて便利です。ただしシミュレーションの B が示したとおり、その場でズームしても切り取り範囲が変わるだけで、遠近感には何も起きていません。背景の見え方を変えたいなら、足で動く必要があります。
大口径レンズ は、開放 F 値が小さい(明るい)レンズのことです。暗い場所で速いシャッター速度を使え、浅い被写界深度 も得やすくなります。単焦点に大口径が多いのは、焦点距離を 1 つに絞ると、光学設計に余裕が生まれるためです。
画角と距離を使った表現#
表現として使うときは、2 つのつまみをどちらへ振るかの選択になります。離れて望遠で圧縮するか、近づいて広角で誇張するかです。
離れて望遠:背景を整理する(Google 画像検索)#
離れて望遠を使うと、背景の写る範囲が狭くなります。画面に入るものが減るので、背景が自然に整理されます。6 章のボケによる整理と目的は似ていますが、効き方が違います。ボケは背景を読めなくすることで整理し、圧縮は背景を写したまま、入れる範囲を絞ることで整理します。背景の雰囲気は見せたいけれど散らかしたくない、というときに効きます。
同時に、奥のものが大きく写ります。夕日や月を背景に大きく入れる、街灯や鳥居の並びを詰めて密度を作る、人混みを壁のように見せる、といった写真はこの性質を使っています。
近づいて広角:手前を誇張する(Google 画像検索)#
広角で被写体に寄ると、手前のものが大きく、奥のものが小さく写り、画面に強い奥行きと動きが出ます。風景では、足元の花や岩を大きく入れて、遠くの山までの距離感を出す使い方が定番です(17 章)。
人物では、前に出した手や足、手に持った道具が大きく写り、勢いのある写真になります。スケートボードやスポーツ、ファッションで、下から見上げて撮る力強い写真に使われます。顔の造作も誇張されるので、整った顔立ちを見せる方向とは別の、勢いを見せる方向の写真になります。
魚眼(Google 画像検索)#
魚眼 は、まっすぐな線をまっすぐに写す(2 章の歪曲収差を補正する)ことをあきらめ、そのかわりに対角線で 180° という画角を得たレンズです。画面の中心を通らない直線は、すべて弧を描いて写ります。丸く膨らんだ独特の写りを、表現としてそのまま使います。
建物が倒れて見えるとき#
広角で建物を見上げて撮ると、上がすぼまり、建物が後ろへ倒れていくように写ります。これも歪曲収差ではなく、カメラの向きによる遠近の効果です。
カメラを上に向けると、センサーが建物の壁と平行でなくなります。建物の上のほうはカメラから遠くなるので小さく写り、縦の線が上ですぼまります。これを パースの倒れ(台形の歪み) と呼びます。
直し方は 3 つあります。
- カメラを水平に保つ — センサーが壁と平行になり、縦の線は平行に写ります。建物の上が切れるなら、短い焦点距離(より広角)に替えるか下がって、あとで余った下側を切り取ります
- シフトレンズを使う — レンズだけを上にずらして、カメラは水平のまま建物全体を収めます(2 章の ティルトシフトレンズ)。建築写真の定番です
- 現像で補正する — 現像ソフトの変形(台形補正)で、縦の線を平行に戻します。画面の周辺が引き伸ばされて切り取られるので、余裕を持って広めに撮っておきます(13 章)
逆に、倒れを強調して、見上げた建物の高さや迫力を出す表現もあります。中途半端に少しだけ倒れていると「失敗」に見え、思い切って倒すと「意図」に見える、というのは構図全般に通じる考え方です(14 章)。