カメラは、光を一方向に通して、決まった時間だけ受け止める装置です。中で起きていることは、突き詰めると次の一本道に収まります。
光 → レンズ → 絞り → シャッター → センサー → 現像
このサイトの以降の章は、すべてこの経路上のどこかの話になります。章の頭にある小さな図(光の一本道)は、その章が経路のどこを扱っているかを示しています。迷ったらこの一本道に戻って、いま何の話をしているのかを位置づけてみてください。
この章では、まず「なぜこの順番で部品が並んでいるのか」を、いちばん単純なカメラから組み立て直していきます。
暗い箱と小さな穴#
窓を閉め切った暗い部屋の壁に小さな穴を開けると、反対側の壁に外の景色が逆さまに映ります。これが カメラ・オブスクラ で、「カメラ」という言葉はここから来ています。ラテン語で「暗い部屋」という意味です。
像が映る理由は単純です。景色の 1 点から出た光は四方へ広がりますが、小さな穴を通り抜けられるのは、その点と穴を結ぶ直線の向きに進む光だけです。だから景色の 1 点は、奥の壁の 1 点にだけ届きます。景色の上のほうの点から来た光は穴を通って壁の下のほうへ、左の点から来た光は右へ届くので、像は上下も左右も逆さまになります。
この仕組みを手のひらに乗る箱にしたものが ピンホールカメラ です。レンズがなくても、穴と暗い箱と、像を受け止める面があれば写真は撮れます。
穴の大きさは、明るさと鮮明さを取り合う#
ピンホールカメラには、どうしても解決できない問題が 1 つあります。穴の大きさです。下のシミュレーションで、穴の直径を動かしてみてください。
読み込み中…
50mm(標準レンズの焦点距離と同じ)です。穴を大きくすると明るくなりますが、景色の
1
点が大きな円に広がって像がぼけます。小さくすると鮮明になりますが、暗くなり、0.25mm
を下回るあたりから回折で再びぼけ始めます。レンズを入れると、大きな穴のまま光を
1 点に集め直せるので、明るさと鮮明さが両立します。
穴を大きくすると、たくさんの光が入るので像は明るくなります。ところが、景色の 1 点から来た光は穴の大きさのぶんだけ広がって壁に届くので、1 点が小さな円になり、像はぼけます。穴の直径がそのまま、にじみの大きさになるのです。
穴を小さくすれば、にじみは小さくなり像は鮮明になります。そのかわり入る光が減って暗くなります。光の量は穴の面積に比例するので、直径を半分にすると明るさは 4 分の 1 です。
さらに穴を小さくしていくと、ある大きさを境に、像はかえってぼけ始めます。光は波なので、とても小さな穴を通ると縁で回り込んで広がってしまうからです。これが 回折 で、穴が小さいほど強く出ます。奥行き 50mm の箱なら、いちばん鮮明になるのは直径 0.25mm 前後です。
シミュレーションの「F 値にすると」の欄を見てみてください。奥行き 50mm の箱に直径 0.25mm の穴なら f/200 です。普通のレンズは f/2.8 や f/4 程度なので、ピンホールカメラはおよそ 5000 倍暗いことになります。晴れた屋外でも、1 枚撮るのに 1 秒以上光を当て続ける必要があります。
レンズは「大きな穴のまま、光を 1 点に集める」道具#
シミュレーションで「レンズを入れる」に切り替えると、大きな穴のままでも像が鮮明になります。
レンズは、穴のいろいろな場所を通った光を曲げて、もう一度 1 点に集め直します。景色の 1 点から出て穴の上端を通った光も、下端を通った光も、壁の同じ 1 点に届くようになるので、穴を大きくしてもにじみません。明るさと鮮明さの取り合いを、光を曲げることで解決しているわけです。
これでカメラの基本の形ができあがります。
- レンズ — 光を 1 点に集め直して、像を結ぶ
- 絞り — レンズの中の穴の大きさを変えて、光の量を調節する(ピンホールの穴の大きさにあたります)
- シャッター — 光を当てる時間を決める
- センサー — 像を受け止めて、電気の信号に変える
ただし、レンズを入れたことで新しい制約が 1 つ生まれます。ピンホールは距離によらずどこでもそこそこ鮮明に写りますが、レンズが 1 点に集められるのは、決まった距離から来た光だけです。それより手前や奥から来た光は 1 点に集まりきらず、ぼけます。これがピント合わせが必要になる理由で、2 章と 4 章で扱います。そしてこの「ぼけ」こそが、6 章で扱う被写界深度とボケの正体です。
光の通り道をたどる#
実際のカメラでは、この一本道がボディの中に折りたたまれています。下の断面図で、一眼レフとミラーレスを切り替えたり、シャッターを切ったりして、光の行き先がどう入れ替わるかを見てみてください。
一眼レフの断面#
デジタル一眼レフ の特徴は、センサーの手前に斜めに置かれた ミラー です。
ミラーが下りている間、レンズを通った光は上へ跳ね返され、ピント板(フォーカシングスクリーン)の上でいったん像を結びます。この像は上下こそ正しいものの、左右が逆になっています。それを、屋根形の面を持つ ペンタプリズム が反射を繰り返して正しい向きに直し、光学ファインダー に届けます。撮影者が見ているのは、レンズを通ってきた光そのものです。なので、露出の設定を変えてもファインダー像の明るさは変わりませんし、電源が切れていても像は見えます。
シャッターを切ると、ミラーが跳ね上がり、メカシャッター が開いて、光がセンサーに届きます。この間、ファインダーは真っ暗になります。ミラーが上がって下りるまでの動きと、シャッター幕が走る動きが、「カシャッ」という音の正体です。
ミラーレスの断面#
ミラーレス は、ミラーとペンタプリズムを取り払ったカメラです。光は常にセンサーへ直進し、センサーが受けた像を電子的に処理して 電子ビューファインダー や背面の液晶へ送ります。
EVF で見えているのは光ではなく、処理を通った映像です。したがって、設定を反映した「撮れる絵」が撮る前に見えます。これが 露出シミュレーション で、露出補正やホワイトバランスの結果を撮影前に確かめられます。センサーが常に像を受けているので、顔や瞳を見つけてピントを合わせ続ける機能(4 章)も得意です。
裏を返すと、EVF には表示までのわずかな遅れがあり、電池の消費も大きくなります。光をそのまま見る OVF が有利な場面も、まだ残っています。
| 一眼レフ | ミラーレス | |
|---|---|---|
| ファインダーで見ているもの | レンズを通った光そのもの | センサーの映像を処理したもの |
| 露出の設定を変えたとき | ファインダー像は変わらない | 撮れる明るさで表示される |
| 撮影の瞬間のファインダー | 真っ暗になる | 機種によっては途切れない |
| 本体の大きさ | ミラーとプリズムのぶん大きい | 小さく軽くしやすい |
| ピント合わせの仕組み(4 章) | 専用の AF センサー | 撮像センサーそのもの |
フランジバック#
ミラーがないことは、ボディの大きさだけでなく、レンズの設計にも効いてきます。
レンズを取り付ける面(マウント面)からセンサーまでの距離を フランジバック と呼びます。一眼レフはミラーを跳ね上げる空間が必要なので、この距離をおおむね 40mm 以上取らなければなりません。ミラーレスは 20mm 前後まで縮められるので、レンズの後ろ側をセンサーの近くまで入り込ませることができ、特に広角レンズを小さく、性能よく作りやすくなりました。
フランジバックが短いことには、もう 1 つ副産物があります。アダプターを挟めば、フランジバックの長い別のマウントのレンズを付けられるのです。逆はできません。ミラーレスに古いレンズを付けて楽しむ人が多いのはこのためです。
カメラの種類#
レンズが交換できるかどうかと、センサーの大きさで、カメラはおおまかに分けられます。
| 種類 | センサーの大きさ | レンズ交換 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 一眼レフ | フルサイズ / APS-C | できる | 光学ファインダー。新製品はほぼ出なくなった |
| ミラーレス | 中判〜1 型 | できる | 現在の主流 |
| コンパクトデジタルカメラ | 1/2.3 型〜フルサイズ(多くは 1 型前後) | できない | 小さい。レンズとセンサーの組み合わせが最適化されている |
| スマートフォン | 1/1.3 型前後(フルサイズの約 1/12 の面積) | できない(複数のカメラを切り替える) | 計算で画質を補う |
| 中判 | フルサイズより大きい | できる | 階調とボケに余裕がある。大きく重い |
このサイトは、デジタル一眼(一眼レフとミラーレス)を基準に説明します。絞り・シャッター速度・ISO 感度を自分で独立して決められ、レンズを交換して焦点距離を選べるので、写真の仕組みがそのまま操作に表れるからです。センサーの大きさは、とくに断りがなければ 35mm フルサイズ(36×24mm)を基準にします。
スマートフォンのカメラとの関係#
スマートフォンのカメラは、センサーもレンズもとても小さく、絞りは固定されていることがほとんどです。それでもきれいに写るのは、コンピュテーショナルフォトグラフィ によって物理的な制約を補っているからです。シャッターを押す前後に何枚も撮って重ね合わせ、ノイズを減らし、明るいところと暗いところを両方残します。背景がぼけるポートレートモードは、レンズのボケではなく、奥行きを推定して後からぼかしを合成したものです。
この違いは、どちらが優れているかという話ではありません。ただ、スマートフォンでは露出もボケも色も「よしなに」まとめて決まるので、どのつまみが写真をどう変えたのかが見えにくくなります。このサイトで扱う仕組みは、スマートフォンの中でも同じように働いています。見えないところで自動で決められているだけです。
各部の名前と役割#
最後に、カメラを真上から見て、操作する部品の名前を確かめておきましょう。
覚えておきたいのは、それぞれの部品が「一本道のどこを操作しているか」です。
- フォーカスリング — レンズを前後に動かして、どの距離に像を結ばせるかを決めます(4 章)
- ズームリング — 焦点距離を変えて、写る範囲を決めます(9 章)。単焦点レンズにはありません
- モードダイヤル — 絞り・シャッター速度のどちらを自分で決め、どちらをカメラにまかせるかを選びます(5 章)
- 前ダイヤル・後ダイヤル — 選んだモードに応じて、絞りやシャッター速度を変えます
- ISO ボタン・露出補正ボタン — 押しながらダイヤルを回して、センサーの感度と、明るさの狙いを変えます(3 章・8 章)
- シャッターボタン — 2 段階になっています
シャッターボタンの半押し#
シャッターボタンは、軽く押した途中で一度止まります。これが 半押し です。半押しの間に、カメラはピントを合わせ、明るさを測ります。そのまま奥まで押し込むと撮影されます。
半押しを使うと、「ピントと明るさを決めてから、構図を整えて撮る」という順番が作れます。いきなり奥まで押すと、カメラはピント合わせと撮影を一度にやろうとして、遅れたりピントを外したりします。撮影の基本の動作は次の順番です。
- 構えて、撮りたいものをファインダーに入れる
- 半押しで、ピントと明るさを決める(4 章・8 章)
- 半押しのまま、構図を整える(14 章)
- 奥まで押し込んで撮る。シャッターが開いている間、カメラを動かさない(7 章)
AF-ON ボタンを使って、ピント合わせを親指に分ける撮り方もあります。これは 4 章で扱います。