露出 は、1 枚の写真を作るためにセンサーに当てる光の量です。少なすぎれば暗い写真に、多すぎれば白っぽい写真になります。
光の量を決めているのは、1 章で並べた一本道の 3 つの部品です。
- 絞り — 光が通る穴の大きさ。穴が大きいほど、一度にたくさんの光が通ります
- シャッター速度 — 光を当てている時間。長いほど、たくさんの光が溜まります
- ISO 感度 — 受けた光をどれだけ増幅するか(3 章)。光そのものは増えませんが、写真の明るさは上がります
水道の蛇口でバケツに水を溜めるところを想像してみてください。蛇口をどれだけ開けるかが絞り、どれだけの時間水を出すかがシャッター速度です。同じ量の水は、蛇口を大きく開けて短い時間で溜めても、少しだけ開けて長い時間かけて溜めても溜まります。ISO 感度は、溜まった水を何倍に見積もるかの約束です。
3 つのつまみと、それぞれの副作用#
3 つのつまみは、どれも明るさを動かします。そのうえで、それぞれ明るさ以外のものも一緒に変えてしまいます。
- 絞り を変えると、ピントの合う範囲の厚み(被写界深度)が変わります(6 章)
- シャッター速度 を変えると、動いているものの写り方(ブレ)が変わります(7 章)
- ISO 感度 を変えると、ノイズの目立ち方が変わります(3 章)
撮影の設定を決めるとは、この 3 つの組み合わせを選ぶことです。そして実は、明るさ自体はどの組み合わせでも同じにできます。本当に選んでいるのは、副作用のほうです。
段という共通の単位#
3 つのつまみは、穴の大きさ、時間、増幅率と、まったく違う物理量です。それでも、光の量が 2 倍になる幅を 1 とする共通の単位で数えられます。これが 段 です。
- シャッター速度:
1/125s→1/60sで 1 段明るい(時間が 2 倍) - ISO 感度:
ISO 400→ISO 800で 1 段明るい(増幅が 2 倍) - 絞り:
f/2.8→f/2で 1 段明るい(穴の面積が 2 倍)
f/4 1/125s ISO 800 から絞りを 1 列右(f/5.6)へ動かしたら、シャッター速度を 1 列左(1/60s)へ動かせば、明るさは元に戻ります。
絞りの数字が 1.4, 2, 2.8, 4, 5.6, 8 と飛び飛びなのは、F 値が穴の直径に関係する数だからです。面積を 2 倍にするには、直径を √2 倍(約 1.4 倍)にする必要があります。そのため F 値の刻みは、およそ 1.4 倍ずつになっています。くわしくは 6 章で扱います。
1/3 段の刻み#
実際のカメラのダイヤルは、1 段をさらに 3 つに分けた 1/3 段ずつ動くのが普通です。
| 1 段 | 1/3 段ずつの刻み | |
|---|---|---|
| 絞り | f/2.8 → f/4 | f/2.8 f/3.2 f/3.5 f/4 |
| シャッター速度 | 1/125s → 1/250s | 1/125 1/160 1/200 1/250 |
| ISO 感度 | ISO 100 → ISO 200 | 100 125 160 200 |
見慣れない数字が出てきたら、表の「1 段」の列に並ぶ値のどれとどれの間にあるかを考えると、明るさの見当がつきます。
相反則:明るさを保ったまま、副作用だけを入れ替える#
段という共通の単位があるので、「絞りを 1 段開けて、シャッター速度を 1 段速める」という交換ができます。明るさは差し引きゼロで変わりません。これが 相反則 です。
下のシミュレーションで、つまみを 1 つ動かして明るさを変え、別のつまみを逆向きに同じ段数だけ動かして戻してみてください。
読み込み中…
- ボケ
- 絞りが決める
- ブレ
- シャッター速度が決める
- ノイズ
- ISO 感度が決める
被写体は横へ
5m/s(走る速さ)で動いています。ブレは露光時間を細かく分けて描いて重ねたもの、ノイズはセンサーが受けた光の粒の数から計算したものです。右下は背面液晶と同じヒストグラムで、端が光ったら白飛びか黒つぶれです。
4 つのプリセットは、いずれも明るさが適正のままで、何を犠牲にしたかだけが違います。
- 背景をぼかす(
f/1.41/2000sISO 100)— 被写界深度を浅くした。ブレもノイズも出ない - 隅々までピント(
f/161/15sISO 100)— 深くした代わりに、シャッターが遅くなって被写体が流れた - ブレを止める(
f/2.81/4000sISO 800)— 速さを買った代わりに、ISO を上げてノイズが乗った - 深さも速さも(
f/81/4000sISO 6400)— 両方取った代わりに、ノイズが最大になった
撮影の設定とは、明るさを適正にする組み合わせの中から、どの副作用を受け入れるかを選ぶことです。暗い場所では、3 つすべてを望みどおりにすることはできません。そのときは、写真にとっていちばん大事なものを守り、いちばん気にならないものを差し出します。
シーンの明るさを数える:EV#
シーンそのものの明るさも、段で表せます。露出値 は、ISO 100 で適正に写るときの絞りとシャッター速度の組み合わせを、1 つの数にまとめたものです。
EV = log₂( F 値² ÷ シャッター速度 )
式を覚える必要はありません。大事なのは、f/1 1s のときを 0 として、光を 1 段減らす組み合わせになるごとに 1 増える(明るい場面ほど大きい)、という点です。f/5.6 1/125s なら EV 12、f/16 1/125s なら EV 15 です。そして、同じ EV の組み合わせは、どれも同じ明るさに写ります。
| 場面 | EV(ISO 100) | 組み合わせの例 |
|---|---|---|
| 晴天の屋外・日なた | 15 | f/16 1/125s |
| 晴天の日陰、明るい曇り | 12〜13 | f/8 1/60s |
| 雨の日の屋外 | 10〜11 | f/4 1/125s |
| 明るいオフィス | 8〜9 | f/2.8 1/60s |
| 夜の明るい繁華街 | 7〜8 | f/2 1/60s |
| 家庭の室内 | 6〜7 | f/2 1/30s |
| 満月に照らされた景色 | −2 前後 | f/2.8 30s |
晴天の日なたと家庭の室内では、光の量が 8〜9 段、つまり 300〜500 倍も違います。人の目は慣れてしまうので気づきませんが、カメラには明らかな違いです。室内で手持ちの写真がぶれやすく、ノイズが出やすいのはこのためです。
晴天 16 の法則#
晴れた日の日なたでは、f/16 のとき、シャッター速度を「1/ISO 感度」秒にすれば適正になる、という経験則があります。ISO 100 なら f/16 1/100s(実機では 1/125s)、ISO 400 なら f/16 1/400s です。これが 晴天 16 の法則 です。
露出計がなかったフィルムの時代の知恵ですが、今でも役に立ちます。カメラの示す露出が晴天 16 から大きく外れていたら、白い砂浜や雪のようにカメラが測り違えやすい場面(8 章)かもしれない、と疑うきっかけになるからです。
撮影モード:どのつまみをカメラにまかせるか#
カメラは画面の明るさを測って(8 章)、適正な露出を計算できます。撮影モード は、その計算結果をどのつまみに反映させるか、つまり何を自分で決めて、何をカメラにまかせるかの分担です。
| モード | 自分で決める | カメラが決める | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| P(プログラム) | なし | 絞りとシャッター速度 | とりあえず写す。スナップ |
| A / Av(絞り優先) | 絞り | シャッター速度 | ボケ・被写界深度を決めたいとき。最もよく使われる |
| S / Tv(シャッター優先) | シャッター速度 | 絞り | 動きの写り方を決めたいとき。スポーツ、乗り物 |
| M(マニュアル) | 絞りとシャッター速度 | なし(露出計の表示だけ) | 明るさを一定に保ちたいとき。スタジオ、夜景、連続した撮影 |
※ Canon と PENTAX は絞り優先を Av、シャッター優先を Tv と表記します。多くのメーカーは A と S です。
絞り優先がよく使われる理由#
写真の印象をいちばん大きく左右するのは、背景がどれだけぼけるか、つまり被写界深度です。絞り優先なら、それを自分で決めたうえで、明るさの帳尻合わせをカメラにまかせられます。
ただし、カメラが選んだシャッター速度が遅すぎて手ブレしていないかは、ファインダーの表示で確かめる必要があります。暗い場所ほど、カメラは黙ってシャッター速度を遅くしていきます。
P モードとプログラムシフト#
P モードでも、ダイヤルを回すと、明るさを保ったまま絞りとシャッター速度の組み合わせを相反則に沿ってずらせます。これを プログラムシフト と呼びます。「とりあえず P で、必要ならダイヤルで背景をぼかす側に振る」という使い方もできます。
M モードを使う理由#
M モードは「難しい上級者向けのモード」と思われがちですが、実際には明るさを固定するためのモードです。
ほかのモードでは、カメラは 1 枚ごとに明るさを測り直すので、構図が少し変わって背景に白い壁が入っただけで、写真の明るさが変わってしまいます(8 章)。M モードなら、一度決めた明るさは、何を写しても変わりません。光の条件が一定のスタジオ撮影、明るさをそろえたい連続した写真、カメラの測光が当てにならない夜景や逆光で使われます。
オート ISO#
ISO 感度もカメラにまかせることができます。これが オート ISO です。
とくに便利なのが、M モードとの組み合わせです。絞りとシャッター速度を自分で決め、明るさの帳尻を ISO 感度で合わせてもらいます。「背景はこのくらいぼかしたい、動きはこのくらい止めたい、そのためならノイズはある程度受け入れる」という判断を、そのまま設定にできるのです。動く被写体を撮るときの定番の設定です(21 章)。
絞り優先でオート ISO を使うときは、シャッター速度がどこまで遅くなったら ISO を上げ始めるか(低速限界)を設定しておくと、手ブレを防げます。