写真に写っているのは、物そのものではなく、物が反射した光です。ですから光が変われば、被写体を変えなくても写真は変わります。同じ人を同じ場所で撮っても、昼と夕方、晴れの日と曇りの日では、まったく別の写真になります。
光には、写真に効く性質がいくつかあります。
- 硬さ(質) — 影の縁がくっきりしているか、なだらかか
- 方向 — どちらから当たっているか
- 色 — 暖かいか、冷たいか(12 章でくわしく扱います)
- 強さ — 明るいか暗いか。写真全体の明るさは露出で合わせられますが、被写体と背景の明暗差は光の強さで決まります
この章では、自分では動かせない太陽と空の光を、どう読んで、どう選ぶかを扱います。自分で光を作るストロボと照明は、次の 11 章です。
硬さは光源の見かけの大きさで決まる(Google 画像検索)#
硬い光 は、影の縁がくっきり出て、明るいところと暗いところがはっきり分かれる光です。柔らかい光 は、影の縁がなだらかに溶け、明るいところから暗いところへ少しずつ移り変わる光です。
この違いを作っているのは、光源の種類ではなく、被写体から見た光源の見かけの大きさです。
点に近い小さな光源では、ある場所に光が当たるか当たらないかの二択になるので、影の縁はくっきり出ます。大きな面から光が来ると、影の縁のあたりでは「光源の一部からは光が届き、一部からは届かない」場所が生まれます。この半分だけ照らされた帯(半影)が、影の縁をなだらかにします。光源が大きいほど、この帯は広くなります。
見かけの大きさは、2 つで決まります。
- 光源そのものの大きさ — 裸の電球より、傘やソフトボックス、カーテン越しの窓のほうが大きい
- 被写体からの距離 — 同じ光源でも、近づけるほど見かけは大きくなる
2 つをまとめた「見かけの大きさ」は、被写体から見て光源が占める角度で表せます。直径 80cm のソフトボックスなら、5m 離すと約 9°、70cm まで寄せると約 60° です。大きさは同じでも、距離だけで角度が 6 倍以上変わります。
下のシミュレーションは、球の被写体と後ろの壁を横から見た断面図です。光源の上端と下端から、球の縁に接する光線を引いてあります。2 本の実線の内側は、光源のどこからも光が届かない 本影 です。実線と破線のあいだは、光源の一部からだけ光が届く 半影 で、ここが影の縁のなだらかな帯になります。右側は、その壁を正面から見た影と、影を横切る線の上の明るさのグラフです。
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24cm の球で、壁はその 50cm
後ろにあります。実線は光源の端から球に接する光線で、その内側が光源のどこからも光が届かない本影です。破線との間が、光源の一部からだけ光が届く半影です。「ソフトボックス
近い」と「遠い」は同じ大きさの光源で、距離だけが違います。明るさは光源の大きさと距離によらずそろえてあるので、変わるのは影の縁の幅だけです。
次の順で動かしてみてください。
- 「太陽と同じ 0.5°」 — 見かけの大きさが
0.5°しかないので、半影の幅は約4mmです。壁の影は縁までくっきりした円になり、グラフも垂直に近い段差になります - 「ソフトボックス 遠い」 — 直径
80cmを5m先に置くと約9°です。半影は約8cmに広がり、影の縁がぼやけ始めます - 「ソフトボックス 近い」 — 同じ光源を
70cmまで寄せると約60°になります。2 本の実線が壁の手前で交わり、本影が消えて、影全体がなだらかな半影だけになります。光源は何も変えていないのに、距離だけでここまで柔らかくなります - 光源の直径のスライダー — 距離を固定したまま大きさだけを変えても、同じように半影の幅が変わることを確かめてみてください
半影の幅は、おおよそ「見かけの角度」×「被写体から影が落ちる面までの距離」で決まります。角度が 2 倍になれば、影の縁のぼけ幅もおよそ 2 倍です。
次のシミュレーションでは、同じことを立体の被写体で確かめられます。光源の大きさと距離を動かして、影の縁がどう変わるかを見てみてください。
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明るさは、光源の大きさと距離によらず一定になるようにそろえてあります。そろえないと大きくした瞬間に明るくなり、硬さの変化が読めなくなるためです。実際の撮影では、光源を近づければ明るくもなります(逆二乗則)。影の縁は、光源の見かけの大きさに応じてぼかす近似で描いています。
覚えておきたいのは 1 つです。柔らかくしたければ、光源を大きくするか、近づける。硬くしたければ、小さくするか、遠ざけます。
硬さは影の縁だけでなく、被写体の表面の見え方も変えます。硬い光は、肌の凹凸や布の織り目、料理の表面のつやを強く浮かび上がらせ、くっきりした光沢(ハイライト)を作ります。柔らかい光は、凹凸をなだらかにし、肌をなめらかに見せ、光沢を広く柔らかくします。人物には柔らかい光、質感を見せたい物には硬い光、というのが出発点です。
距離で明るさが急に変わる:逆二乗則#
光源から離れると、光は広がって薄まります。広がる面積は距離の 2 乗に比例するので、明るさは距離の 2 乗に反比例して落ちます。これが 逆二乗則 です。
| 光源からの距離 | 1m | 1.4m | 2m | 2.8m | 4m |
|---|---|---|---|---|---|
| 明るさ | 1 | 1/2 | 1/4 | 1/8 | 1/16 |
| 段数 | 0 | −1 | −2 | −3 | −4 |
距離が 1.4 倍になるごとに 1 段暗くなります。6 章の F 値の刻みと同じ数字が並ぶのは、どちらも「面積」の話だからです。
写真で効いてくるのは、被写体と背景の明るさの差です。
- 光源が近い(被写体まで
1m、背景まで2m)と、背景は被写体より 2 段暗くなります。背景が落ち、被写体が浮かび上がります - 光源が遠い(被写体まで
4m、背景まで5m)と、背景との差は 0.6 段ほどしかありません。全体が均一に照らされます
窓辺のポートレートで、窓に近いほど背景が暗く落ち、ドラマチックになるのはこのためです。太陽は 1 億 5000 万 km 先にあるので、地上でどれだけ動いても明るさは変わりません。逆二乗則が効くのは、窓・照明・ストロボのような近くの光源です(11 章)。
光の方向(Google 画像検索)#
同じ硬さの光でも、どちらから当てるかで写真は別物になります。
- 順光 — カメラの側から当たります。被写体の色や形がそのまま見えますが、影がほとんど見えないので、立体感は乏しくなります
- サイド光 — 真横から当たります。半分が明るく、半分が影になり、凹凸と質感がもっとも強調されます。料理、物撮り、建物の壁面、力強い印象のポートレートに
- 斜光(斜め前から) — 順光とサイド光の間。立体感と色の両方が出る、いちばん扱いやすい方向です
- 半逆光 — 斜め後ろから当たります。輪郭が光り、被写体の面の情報も残ります。人物や料理、花で、柔らかく透明感のある写真になります
- 逆光 — 真後ろから当たります。輪郭が光り、透ける物(葉、髪、ガラス)は輝きます。そのままだと被写体は暗く写ります
- トップ光 — 真上から当たります。人物では目元と鼻の下に濃い影が落ちるので、正午の屋外での人物撮影は難しくなります
シミュレーションの「方向」のプリセットで、5 つの方向を切り替えられます。光源の大きさも距離も高さも同じで、変わるのは方向だけです。
光は横の方向だけでなく、高さでも印象を変えます。下から当たる光(顔の下から懐中電灯で照らすような光)は、自然界にはほとんどないので、不気味で不安な印象になります。
逆光まわりの語彙(Google 画像検索)#
- リムライト — 被写体の輪郭に沿って細く光る縁取り。背景から被写体を切り離して見せます。6 章の被写体分離を、ボケ以外の方法で作る定番です
- シルエット — 明るい背景に露出を合わせ、被写体を黒い形だけで見せる写真。露出補正をマイナスにするか、背景をスポット測光して作ります(8 章)
- キャッチライト — 瞳に映り込んだ光源。あるかないかで、人物の表情の生き生きとした印象が大きく変わります。光源の形がそのまま写るので、窓なら四角く、丸いレフ板なら丸く写ります
逆光で人物の顔を明るく写したいときは、露出補正をプラスにして背景を飛ばすか、レフ板やストロボで顔に光を足します(後の節と 11 章)。逆光ではレンズに直接光が入ってフレアが出やすいので、レンズフードを付けましょう(2 章)。
時間帯#
太陽の光は、時刻によって方向・硬さ・色・強さがすべて変わります。下のシミュレーションで、朝から夜まで時刻を動かしてみてください。
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日中#
太陽が高い時間帯は、光は硬く、真上に近い方向から当たります。影は短く濃く、明暗差が大きくなります。人物では目元に影が落ちやすく、風景では立体感の乏しい、平らな写真になりがちです。色は昼の白い光(約 5500K)で、もっとも見たままに近い色で写ります。
日中に人物を撮るなら、日陰に入る(後の節)、薄いカーテンやディフューザーで光を柔らかくする、太陽を背にして逆光で撮りレフ板で顔を起こす、といった工夫をします。
ゴールデンアワー(Google 画像検索)#
日の出の直後と日の入りの直前、太陽の高さが 10° を下回るころを ゴールデンアワー と呼びます。
- 方向: 低い位置から、横に近い方向で当たります。影が長く伸び、地形や建物の凹凸が浮かび上がります
- 色: 大気を長い距離通ってくるあいだに青い光が散らされ、
2500〜3500Kの暖かいオレンジ色の光になります - 硬さ: 大気で光が少し散らされ、日中よりわずかに柔らかくなります
- 明るさ: 空と被写体の明るさの差が縮まり、空と地上の両方を写しやすくなります
風景でも人物でも、多くの写真家がもっとも好む時間帯です。長さは季節や緯度で変わりますが、日本ではおよそ 30 分〜1 時間ほどしかありません。
ブルーアワー(Google 画像検索)#
日の入りのあと(日の出の前)、太陽が地平線の下 4°〜6° 前後にあるころを ブルーアワー と呼びます。直射日光はなくなり、空からの青い光だけが残ります。空は深い青になり、街の灯りのオレンジと対比が生まれます。夜景を撮るなら、空が真っ黒になる前のこの時間がいちばん美しく写ります(18 章)。
この時間はとても暗いので、三脚と長めのシャッター速度が必要です。シミュレーションの「昼より必要な露出」の欄で、日中より何段暗いかを確かめてみてください。
天気#
| 天気 | 光の硬さ | 写り方 | 向いているもの |
|---|---|---|---|
| 快晴 | 硬い | 影が濃く、色が鮮やか。明暗差が大きい | 青空の風景、建物、くっきりした印象 |
| 薄曇り | やや柔らかい | 影の縁が柔らかく、明るさも十分 | ポートレート全般。いちばん失敗が少ない |
| 曇り | とても柔らかい | 影がほとんどなく、平らで色は控えめ。やや青い | 肌、花、森の中、しっとりした雰囲気 |
| 雨 | 柔らかい | 濡れた地面や葉が光を映し、色が深くなる | 街の反射、緑、静かな雰囲気 |
| 霧・もや | 柔らかい | 遠くのものほど白く溶ける | 奥行きと静けさ(空気遠近) |
| 雪 | 柔らかい〜硬い | 地面が巨大なレフ板になり、影が明るく起きる | 白い世界。露出補正に注意(8 章) |
曇りの日は「天気が悪いから撮れない」日ではなく、柔らかい光が手に入る日です。逆に、雲ひとつない快晴の正午は、人物にとってはいちばん難しい光の 1 つです。
日陰と窓の光#
日陰#
晴れた日の建物の陰や木陰では、直射日光が遮られ、空全体からの光だけが届きます。空は大きな面光源なので、光はとても柔らかくなります。人物を日なたから日陰に一歩移すだけで、目元の影が消え、肌がなめらかに写ります。
日陰の光は空の青を含むので、写真は青っぽくなります(7000〜8000K)。ホワイトバランスで補正するか、あえて涼しい色として残します(12 章)。日陰の中でも、明るい日なたの地面や白い壁が近くにあると、その照り返しが被写体を下から起こしてくれます。
窓の光#
室内の窓は、写真家がいちばん手軽に使える大きな面光源です。北向きの窓や、レースのカーテン越しの光は、とくに柔らかくなります。
- 距離: 窓に近いほど光は柔らかく明るく、背景との明暗差(逆二乗則)は大きくなります。窓から離れるほど、光は硬く暗く、全体が均一になります
- 方向: 窓を横にすればサイド光、斜め前にすれば斜光、窓を背にすれば逆光になります
- 反対側: 窓と反対側の顔は暗く落ちます。白い壁やレフ板で起こすと、影の濃さを調節できます
光を整える道具#
自然光は動かせませんが、整えることはできます。
- レフ板 — 光を反射させて、影の側に光を足します。白は柔らかく自然に、銀は強くくっきりと、金は暖かく足します。白い画用紙や発泡スチロールの板でも代わりになります
- 黒レフ — 黒い板で周りからの照り返しを遮り、影をあえて濃くします。光を「引く」道具です
- ディフューザー — 半透明の布や板を、光源と被写体の間に入れて光を散らします。硬い日差しを、見かけの大きな柔らかい光に変えます
レフ板は、被写体に近いほど強く効きます(逆二乗則)。影の側から少しずつ近づけながら、影の濃さを見て決めます。光を足しすぎて影がなくなると、日中の順光のように平らな写真に戻ってしまいます。