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写真のしくみ
  1. 序 はじめに
  2. 01 カメラという装置
  3. 02 レンズ
  4. 03 センサーと画質
  5. 04 ピントとオートフォーカス
  6. 05 露出と段
  7. 06 絞りと被写界深度
  8. 07 シャッターと時間
  9. 08 測光とヒストグラム
  10. 09 焦点距離と遠近感
  11. 10 自然光
  12. 11 ストロボと人工光
  13. 12 色
  14. 13 RAW 現像とレタッチ
  15. 14 構図
  16. 15 アングルとショットサイズ
  17. 16 ポートレート
  18. 17 風景
  19. 18 夜景と星
  20. 19 物撮りと料理
  21. 20 スナップ
  22. 21 動きもの

第 1 部 カメラのしくみ

2 章 レンズ

レンズが光を曲げて像を結ぶ仕組みと、焦点距離・ピント・撮影倍率の関係、そして「1 点に集めきれない」ことから生まれる写りの癖を扱います。

光の一本道のうち、この章の範囲

  1. 光
  2. レンズ (この章で扱う)
  3. 絞り
  4. シャッター
  5. センサー
  6. 現像

この章でわかること

  • 焦点距離が何の距離なのか
  • ピントを合わせるとき、レンズの中で何が動いているのか
  • 被写体に近づける限界と、マクロ撮影の倍率の考え方
  • 収差の種類と、絞ると直るもの・直らないもの
  • レンズの名前と鏡筒の表記の読み方
この章の見出し(8)

1 章で、レンズは「大きな穴のまま、光を 1 点に集め直す」道具だと説明しました。この章では、その集め方をもう少しくわしく見ていきます。光がどこに集まり、像がどの大きさになるかは、たった 1 つの式で決まっています。

光を曲げる#

光は、空気からガラスのように、光の進む速さ(屈折率)が違う物質に入るとき、境目で進む向きを変えます。これが 屈折 です。水を入れたコップにストローを差すと折れ曲がって見えるのも、同じ現象です。

レンズは、この曲がり方を表面の形で制御する道具です。写真用のレンズの基本は、中央が厚く縁が薄い凸レンズです。縁に近いところを通る光ほど大きく曲がるように表面が削られているので、平行に入ってきた光は、レンズを抜けたあと 1 点に集まります。この点が 焦点 です。

焦点距離は「曲げる強さ」の目安#

焦点距離 は、無限遠から来た平行な光が集まる点(焦点)までの、レンズからの距離です。

強く曲げるレンズほど、光はレンズの近くで集まり、焦点距離は短くなります。弱く曲げるレンズほど、遠くで集まり、焦点距離は長くなります。

焦点距離が長いと、同じ景色でもセンサー上に大きく引き伸ばされた像ができます。センサーの大きさは決まっているので、大きく写るほど、写る範囲は狭くなります。24mm が広く写り、200mm が遠くのものを大きく写すのはこのためです。写る範囲(画角)と焦点距離の関係は 9 章でくわしく扱います。

像はどこにできるか#

遠くの景色は焦点距離の位置に像を結びますが、近くのものは違います。下のシミュレーションで、被写体までの距離と焦点距離を動かしてみてください。図は実寸の目盛りで描いているので、焦点距離を変えると像のできる位置と大きさがそのまま動きます。

読み込み中…

像の高さ — レンズから像まで — 繰り出し量 — 撮影倍率 —
0.45m
50mm
図は横も縦も実寸(mm)の目盛りで、焦点距離を変えても目盛りはそのままです(見やすいように、縦は横より大きく引き伸ばしています)。被写体は高さ 20mm の矢印、センサーの赤い線は実際の高さ 24mm です。F と F' がレンズの前後の焦点で、赤の矢印が像です。焦点距離を長くすると、F' が右へ離れ、像はレンズから遠くに、大きくできます。被写体を近づけると、像は後ろへ下がって大きくなります。「無限遠のまま」にすると、センサーを動かさなかったときに光が 1 点に集まらず、広がって当たる様子が見えます。これがピントが外れた状態です。

被写体を近づけていくと、像はレンズから遠ざかる方向へ下がり、同時に大きくなります。これを式で書いたものが レンズの公式 です。

1 / 被写体までの距離 + 1 / 像までの距離 = 1 / 焦点距離

50mm のレンズで計算してみます。

被写体まで像まで無限遠からの繰り出し量撮影倍率
無限遠50.0mm0mm0
5m50.5mm0.5mm1:99
1m52.6mm2.6mm1:19
0.45m56.3mm6.3mm1:8
0.1m100mm50mm1:1(等倍)

遠くの被写体どうしでは像の位置はほとんど変わりませんが、近づくほど急に後ろへ下がっていきます。

焦点距離を変えると、同じ距離の被写体でも像の位置と大きさが変わります。被写体を 1m 先に置いたまま、焦点距離を 24mm から 200mm へ長くしていくと、レンズから像までの距離は 24.6mm から 250mm へ遠ざかり、高さ 20mm の被写体の像は 0.5mm から 5mm へ大きくなります。像の大きさは焦点距離にほぼ比例し、被写体が遠いほどこの比例に近づきます。

繰り出し量はもっと大きく変わり、0.6mm から 50mm へ、焦点距離のおよそ 2 乗に比例して増えます。望遠レンズほどピント合わせでレンズを大きく動かさなければならず、寄れる距離も遠くなりがちなのは、このためです。

ピント合わせは、像の位置にセンサーを合わせること#

センサーの位置は決まっているので、像がセンサーの前後にずれると、光は 1 点に集まらないまま当たり、ぼけます。シミュレーションで「無限遠のまま」に切り替えると、その様子が見えます。

そこでカメラは、レンズ全体(あるいはレンズの中の一部のレンズ群)を前後に動かして、像がちょうどセンサーの上にできるようにします。これがピント合わせです。表の「繰り出し量」が、そのために動かす距離にあたります。50mm のレンズで 5m 先から 1m 先へピントを移すときに動かすのは、わずか 2mm ほどです。ピントがシビアなのは、このためです。

ピント合わせの自動化(オートフォーカス)は 4 章で扱います。

撮影倍率と最短撮影距離#

撮影倍率 は、被写体の実際の大きさに対して、センサー上の像が何倍の大きさになるかです。像までの距離 ÷ 被写体までの距離で求められます。等倍(1:1)なら、10mm の虫がセンサー上でも 10mm に写ります。

レンズにはピントを合わせられるいちばん近い距離があり、これを 最短撮影距離 と呼びます。繰り出せる量に限りがあるからです。一般的なレンズの最大撮影倍率は 0.1〜0.25 倍程度ですが、等倍まで寄れるように作られたものが マクロレンズ です。

被写体が焦点距離よりも近いと、光はレンズを出たあとも広がり続け、どこにも集まりません(シミュレーションで、焦点距離 50mm のまま被写体を 0.04m まで近づけたとき)。像ができないので、写真は撮れません。この状態のレンズを目に近づけてのぞくと、物が大きく見えます。虫眼鏡の使い方がこれです。

実際のレンズは何枚もの組み合わせ#

ここまでは 1 枚の薄いレンズで考えてきましたが、実際の交換レンズの中には、数枚から 20 枚ほどのレンズが入っています。1 枚では光をきれいに 1 点に集められないからです。

レンズの構成は「15 群 20 枚」のように書かれます。レンズ構成 で、貼り合わせて 1 つのかたまりとして動くものを「群」と数えます。それぞれが前のレンズのくせを打ち消すように組まれていて、なかには特別な役割を持つものもあります。

  • 非球面レンズ — 表面が球面ではないレンズ。1 枚で球面収差や歪曲を大きく減らせるので、枚数を減らして小さく軽くできます
  • 低分散ガラス — 色によって曲がり方が違う性質(分散)が小さいガラス。色収差を減らします。メーカーごとに ED・UD・SD などと呼ばれます
  • フォーカス群 — ピント合わせのときに動くレンズ群。レンズ全体ではなく中の軽い群だけを動かすと、ピント合わせが速く静かになります(インナーフォーカス)

レンズに書かれている焦点距離は、何枚もの組み合わせを「同じ働きをする 1 枚のレンズ」に置き換えたときの値です。ですから、鏡筒の長さと焦点距離は一致しません。望遠レンズは焦点距離より短い鏡筒に収まるように設計され、一眼レフ用の広角レンズは、ミラーを避けるために焦点距離より後ろへ像を結ぶように設計されています。

収差#

レンズが光を理想どおり 1 点に集めきれず、像が崩れることを 収差 と呼びます。何枚ものレンズを組み合わせるのは、この収差を打ち消し合わせるためです。

5 つの収差の写り方 球面収差 全体がにじむ コマ収差 隅の点が尾を引く 像面湾曲 中央か隅かが外れる 歪曲収差 直線が曲がる 色収差 輪郭に色が付く
どれもレンズが光を「1 点に集めきれない」ことから生まれる写りの崩れです。球面収差とコマ収差は絞ると目立たなくなり、像面湾曲は絞って被写界深度を深くすると隅までピントの範囲に入ってきます。歪曲収差と、画面の隅で出る色収差(倍率色収差)は絞っても変わらないので、現像で補正します。

球面収差#

球面のレンズでは、縁を通った光ほど強く曲がり、中央を通った光より手前で集まってしまいます。これが 球面収差 です。1 点に集まりきらない光が芯のまわりに薄く広がり、絞りを開けたときに全体がふんわりとにじんだ写りになります。シミュレーションの「球面収差」で、縁の光線が手前で交わる様子を見てみてください。

絞ると縁を通る光が遮られるので、球面収差は急速に目立たなくなります。古いレンズや、柔らかい写りのために球面収差をあえて残したソフトフォーカスレンズでは、開放のにじみを表現として使います。

コマ収差#

画面の隅にある点が、彗星(コマ)のように中心から外向きに尾を引いて写るのが コマ収差 です。星空や夜景の点光源で目立ちます。これも絞ると減ります。

像面湾曲#

ピントの合う面が平らではなく、お椀のように曲がっているのが 像面湾曲 です。画面の中央にピントを合わせると隅がぼけ、隅に合わせると中央がぼけます。平らな壁や書類を写すと気づきやすくなります。絞って被写界深度を深くすると、曲がった面全体が深度の中に収まるので目立たなくなります。

歪曲収差#

まっすぐな線が曲がって写るのが 歪曲収差 です。中央が膨らむ樽形と、中央がすぼまる糸巻き形があり、広角側で樽形、望遠側で糸巻き形になりやすい傾向があります。

歪曲収差は光が 1 点に集まらないことではなく、集まる位置がずれることなので、絞っても変わりません。そのかわり、ずれ方はレンズごとに決まっているので、カメラ内や現像ソフトの補正(レンズプロファイル)で、ほぼ完全に元に戻せます。

色収差#

ガラスは色(波長)によって光を曲げる強さが少しずつ違います。青い光は強く、赤い光は弱く曲がるので、色ごとに集まる位置がずれます。これが 色収差 です。シミュレーションの「色収差」で、3 色の光が少しずつ違う位置で交わるのを見てみてください。

色収差には 2 つの出方があります。

  • 軸上色収差 — 色ごとに前後にずれる。ピントの前後のボケに紫と緑の縁が付きます。絞ると減ります
  • 倍率色収差 — 色ごとに像の大きさがずれる。画面の隅の明暗の境目に、赤と青緑の縁が付きます。絞っても減りませんが、現像で補正できます

絞ると直るもの、直らないもの#

収差見え方絞ると
球面収差全体がにじむ減る
コマ収差隅の点が尾を引く減る
像面湾曲中央と隅のピントが合わない深度に収まって目立たなくなる
歪曲収差直線が曲がる変わらない(現像で補正)
軸上色収差ボケに色の縁減る
倍率色収差隅の輪郭に色の縁変わらない(現像で補正)

多くのレンズは、開放から 1〜2 段絞ったあたりで画面全体がもっともシャープになります。ただし絞りすぎると、1 章で見た回折で今度は全体がぼけていきます。この取り合いは 6 章で扱います。

解像とコントラスト#

レンズの写りのよさは、細かい模様をどこまで分けて写せるか(解像)と、明暗の差をどれだけ保てるか(コントラスト)の 2 つで語られます。メーカーが公開している MTF のグラフは、この 2 つを、画面の中心から隅までの位置ごとに示したものです。

MTF のグラフはくわしく読み解かなくても、次の 2 点だけ押さえておけば十分です。

  • 線が上にあるほど、コントラストが高く、くっきり写ります
  • 線が右(画面の隅)まで平らなほど、中央と隅で写りの差が少なくなります

余計な光:フレア、ゴースト、周辺減光#

フレアとゴースト(Google 画像検索)#

レンズの表面は、入ってきた光をわずかに反射します。何枚ものレンズの間で反射を繰り返した光が本来の像に重なると、写りが崩れます。強い光源が画面の中やすぐ外にあると、とくに目立ちます。

フレア は、反射した光が画面全体に散る出方です。黒が浮いて白っぽくなり、コントラストが落ちます。ゴースト は、反射した光が光源と画面の中心を結ぶ線の上に、絞りの形をした光の玉として並ぶ出方です。玉が絞りの形になるのは、光の束の断面が絞りの開口で決まるためで、6 章で扱う玉ボケの形が決まるのと同じ理屈です。

対策は 2 つです。レンズの表面には反射を抑える コーティング が施されていて、現代のレンズでは反射は 1 面あたり 0.1〜0.5% 程度まで抑えられています。それでも残るぶんは、画面の外から入る斜めの光を レンズフード で遮って防ぎます。逆光で白っぽく写ったら、まずフードを付けて、手で光源を隠してみてください。

古いレンズのフレアや、映画のような横に伸びるフレアを、表現としてあえて入れることもあります。

周辺減光(Google 画像検索)#

画面の隅が中央より暗く写るのが 周辺減光 です。斜めから入る光は、レンズの前後の枠に一部が遮られ、さらにセンサーに斜めに当たるので、中央より光が少なくなります。絞りを開けたときに強く出て、1〜2 段絞ると目立たなくなります。現像で補正できますが、視線を中央に集める効果があるので、あえて残したり足したりすることもあります。

レンズの表記の読み方#

レンズの名前には、選ぶときに必要な情報がほぼすべて入っています。

レンズ鏡筒に書かれている表記の読み方 24 35 50 70 24-70mm 1:2.8 ⌀77mm 0.38m ∞ AF VR 焦点距離の範囲 24〜70mm のズーム 開放 F 値 1:2.8 は f/2.8 のこと フィルター径 前にねじ込むフィルターの大きさ 最短撮影距離 センサー面から測る いまの焦点距離 指標の位置を読む AF / MF 切替 手ブレ補正 VR・IS・OSS など マウント ボディと同じ規格
レンズの名前には、焦点距離と開放 F 値が入っています。フィルター径は名前には入らないことが多く、鏡筒の前側やレンズキャップの裏に ⌀77mm のように書かれています(前玉が大きく張り出したレンズのように、フィルターを付けられないものもあります)。ズームで開放 F 値が 1:3.5-5.6 のように 2 つ書かれていたら、広角側では f/3.5、望遠側では f/5.6 まで開けられるという意味です。手ブレ補正の略号はメーカーごとに違いますが、中身は同じものです。
  • 焦点距離 — 50mm のように 1 つなら単焦点、24-70mm のように範囲ならズームです
  • 開放 F 値 — 1:2.8 や F2.8 と書かれます。そのレンズでいちばん大きく開けたときの F 値で、小さいほど明るいレンズです(6 章)。ズームで 1:3.5-5.6 と 2 つ書かれていたら、焦点距離によって開放 F 値が変わる、という意味です
  • マウント — ボディとの接続の規格。メーカーとシリーズごとに違い、合わないものは付きません
  • 手ブレ補正 — レンズ内に補正機構があるかどうか(7 章)
  • フィルター径 — ⌀77mm のように書かれます。レンズの前にねじ込む保護フィルターや ND フィルター(7 章)を選ぶときに使います
  • 最短撮影距離と最大撮影倍率 — どこまで寄れるか

レンズの種類#

種類焦点距離の目安(フルサイズ)向いているもの
超広角14〜20mm風景・建築・室内。遠近を強く誇張する(9 章)
広角24〜35mm風景・スナップ・人物を背景ごと
標準40〜60mm見たときの遠近感が肉眼に近い(9 章)
中望遠85〜135mmポートレート。背景を整理しやすい
望遠・超望遠中望遠より長いもの(おおむね 200mm 以上)スポーツ・野生動物・遠くの風景
マクロ30〜200mm等倍まで寄れる。花・虫・物撮り
魚眼8〜16mm歪曲を補正せず、対角 180° を写す
ティルトシフトレンズ17〜135mmレンズを傾け・ずらす。建築の倒れの補正、ピント面を傾けた表現

焦点距離が固定の 単焦点 と、範囲を変えられる ズーム の違いは、写りの性質ではなく「明るさ・大きさ・思考の順番」の違いです。9 章で、遠近感と焦点距離の関係と合わせて扱います。

望遠側を伸ばしたいときは、レンズとボディの間に挟んで焦点距離を 1.4 倍や 2 倍にする テレコンバーター もあります。そのぶん開放 F 値も同じ倍率だけ大きくなり、1.4 倍で 1 段、2 倍で 2 段暗くなります。