センサーが記録したのは、画素ごとの光の量という数値の並びです。それを、見て美しい 1 枚の写真に仕上げる工程が RAW 現像 です。フィルムの時代に、撮ったフィルムを薬品で処理して写真にしていた工程の名前を、そのまま受け継いでいます。
JPEG で撮った場合も、現像はしています。カメラが撮影の瞬間に、自動で済ませているのです。
RAW と JPEG#
RAW は、センサーが受けた信号を、デモザイク(3 章)もホワイトバランスもかけずにそのまま保存した形式です。JPEG は、カメラがそれらの判断をすべて済ませて、表示用の写真として焼き込んだ結果です。
| RAW | JPEG | |
|---|---|---|
| 記録している値 | センサーの値(12〜14 bit、光の量に比例) | 表示用の値(8 bit、階調カーブ済み) |
| ホワイトバランス | あとで自由に決め直せる | 焼き込み済み。大きく動かすと色が崩れる |
| 白飛びした部分 | 0.5〜1 段ほど戻せることが多い | 戻らない |
| 暗部の持ち上げ | ノイズは増えるが段差は出にくい | 段差(トーンジャンプ)が出やすい |
| ファイルの大きさ | 大きい(2400 万画素で 25〜30MB 程度) | 小さい(数 MB) |
| そのまま使えるか | 現像ソフトで現像が必要 | どこでもすぐ開ける |
JPEG で撮るのが悪いわけではありません。カメラの JPEG は、メーカーが時間をかけて作り込んだ、よくできた現像の結果です。すぐに共有したいとき、大量に撮るとき、カメラの色が気に入っているときには JPEG が便利です。撮ったあとで明るさや色を大きく変えたくなりそうな場面、明暗差の大きい場面では、RAW で撮っておくと安心です。多くのカメラでは、RAW と JPEG を同時に保存することもできます。
スマートフォンの RAW#
スマートフォンにも RAW で保存できるものがありますが、中身は大きく 2 種類に分かれます。
- 1 枚分のセンサーの値を残した RAW — 一眼の RAW と同じく、デモザイクもホワイトバランスもかける前の値です。そのかわり、スマートフォンがふだん行っている複数枚の合成(1 章)を通らないので、同じ場面を標準の設定で撮った写真よりノイズが目立つことがあります。センサーが小さいぶん、一眼の RAW ほど暗部を持ち上げる余裕もありません
- 合成したあとの RAW — 何枚も重ねて合成した結果を、ホワイトバランスや階調カーブを焼き込む前の段階で保存したものです。デモザイクまで済ませているものも多く、ホワイトバランスや露光量はあとから動かせますが、どの部分をどう重ねたかという合成の結果は変えられません
どちらも、メーカーや機種ごとの形式ではなく共通の形式で保存されることが多く、たいていの現像ソフトでそのまま開けます。スマートフォンの写真を大きく調整したいなら、標準の写真ではなくこうした RAW から現像すると、白飛びの戻しやホワイトバランスの決め直しに余裕が残ります。
現像の順番#
現像は、次の順番で進めるのがおすすめです。現像ソフトのパネルの並び(多くは基本補正が先頭で、レンズ補正は下のほう)とは違いますが、この順に進めると、あとの調整が前の調整を壊さずに済みます。
- レンズ補正 — 歪曲収差・周辺減光・色収差を、レンズのプロファイルで直す
- ホワイトバランス — 光の色を決める(12 章)
- 露光量 — 写真全体の明るさを決める
- ハイライト・シャドウ・白レベル・黒レベル — 明るい部分と暗い部分を、それぞれ調整する
- トーンカーブ — 明るさごとの階調の配分を決める
- 明瞭度・テクスチャ・かすみの除去 — 細部と中間の明暗差を調整する
- 色 — 彩度、色ごとの調整(HSL)、カラーグレーディング
- シャープネスとノイズ除去
- トリミングと傾きの補正
- 部分補正 — 空だけ、人物だけ、といった場所ごとの調整
- 書き出し
下のシミュレーションは、このうちの 2〜7 を小さく再現したものです。
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明るさを決める#
露光量#
露出 の調整(露光量)は、写真全体を段数で明るくしたり暗くしたりします。撮影時の露出補正(8 章)を、あとからかけ直すようなものです。RAW なら、±2 段程度は大きな劣化なく動かせます。
ハイライトとシャドウ#
露光量で全体を明るくすると、もともと明るい空も一緒に明るくなり、白飛びしてしまいます。ハイライトとシャドウは、明るい部分と暗い部分を別々に調整するスライダーです。
- ハイライトを下げる — 明るい部分だけを暗くして、空や白い服の階調を取り戻します
- シャドウを上げる — 暗い部分だけを明るくして、影の中を見えるようにします
シミュレーションで、ハイライトを −100、シャドウを +60 くらいにしてみてください。逆光で暗く沈んでいた地面と、白飛びしかけていた空が、両方とも見えるようになります。8 章の「明るい部分を守って撮り、暗い部分はあとで持ち上げる」は、この操作を前提にした考え方です。
やりすぎると、明るいところと暗いところの差がなくなって、平らで不自然な写真になります。ハイライトとシャドウの間には、本来ある程度の差があるのが自然です。
白レベルと黒レベル#
白レベルと黒レベルは、写真の中でいちばん明るい点といちばん暗い点を決めます。白レベルを上げると明るい部分が白に近づき、黒レベルを下げると暗い部分が黒に締まります。8 章のヒストグラムを見ながら、山の両端がちょうど端に届くくらいに合わせると、写真全体に締まりが出ます。
トーンカーブ#
トーンカーブ は、写真の明るさを、入力(元の明るさ)と出力(調整後の明るさ)の対応で描いたグラフです。何もしなければ、左下から右上への斜めのまっすぐな線です。この線を曲げると、明るさごとの階調の割り当てが変わります。
- S 字 — 明るい部分をより明るく、暗い部分をより暗くします。中間の明暗差が広がり、コントラストが強くなります
- 逆 S 字 — コントラストを弱くし、柔らかく眠い印象にします
- 左下を持ち上げる(フェード) — 真っ黒がなくなり、黒が少し灰色に浮きます。フィルムで撮ったような、柔らかく懐かしい印象になります
シミュレーションの「トーンカーブ」で、S 字とフェードを切り替えてみてください。露光量が「どれだけ明るくするか」を決めるのに対して、トーンカーブは「明るさの差をどこに配るか」を決めます。
赤・緑・青のチャンネルごとにカーブを曲げると、明るさごとに色を変えることもできます。暗い部分だけ青く、明るい部分だけ黄色く、といった色づくりは、次の節のカラーグレーディングと同じ考え方です。
細部と空気感#
- 明瞭度 — 中間の明るさの、少し広い範囲の明暗差を強めます。輪郭がはっきりし、硬く力強い印象になります。人物の肌にかけると、しわや凹凸が強調されます
- テクスチャ — より細かい質感(肌のきめ、布の織り目、岩肌)だけを強めたり弱めたりします
- かすみの除去 — 空気中のもやで薄まったコントラストと色を取り戻します。逆に下げると、霧がかかったような柔らかい雰囲気になります
どれも強くかけるほど効果がはっきりしますが、強くかけすぎると、明るいものの周りに光の縁(ハロ)が出て、不自然になります。
色を整える#
ホワイトバランス#
12 章で見たホワイトバランスを、あとから決め直します。RAW なら劣化なく自由に動かせます。写真の中の、本来は白や灰色のはずの場所をスポイトでクリックすると、そこが無彩色になるように自動で合わせてくれます。
彩度と自然な彩度#
12 章で見たとおり、彩度はすべての色を一律に、自然な彩度は色の薄い部分を優先して鮮やかにします。人物の写真では、自然な彩度を中心に使います。
HSL#
HSL は、色ごとに、色相(H:どの色か)・彩度(S:鮮やかさ)・輝度(L:明るさ)を別々に調整するパネルです。
- 青の輝度を下げる → 空だけが深く濃い青になる
- オレンジの輝度を上げ、彩度を少し下げる → 肌が明るく、なめらかに見える
- 緑の色相を黄色寄りに動かす → 木々の緑が柔らかく、季節感が変わる
- 特定の色以外の彩度を下げる → 1 色だけが残る印象的な写真になる
カラーグレーディング#
カラーグレーディング は、暗い部分・中間・明るい部分のそれぞれに、別の色をわずかに乗せて、写真全体の色の設計を作る作業です。
映画でよく使われる「ティール・アンド・オレンジ」は、暗い部分を青緑に、明るい部分(肌を含む)をオレンジに寄せる組み合わせです。反対色どうしなので、人物が背景から浮かび上がり、映画のような雰囲気になります。古くからある、暗部と明部に別の色を付ける手法は、スプリットトーン とも呼ばれます。
シャープネスとノイズ除去#
シャープネス は、輪郭の明暗差をわずかに強めて、くっきり見せる処理です。ピントの合っていない写真をピントの合った写真にするものではありません。かけすぎると、輪郭に白い縁が出て、ざらついた硬い写真になります。肌や空のような平らな部分にはかけず、輪郭にだけかける(マスク)のが基本です。
ノイズ除去 は、3 章で見たノイズを目立たなくする処理です。輝度ノイズ(ざらつき)とカラーノイズ(色の斑点)を別々に調整できます。カラーノイズは強めに消しても違和感が出にくく、輝度ノイズは消しすぎると、肌や質感まで塗りつぶしたようにのっぺりします。最近の現像ソフトには、学習したモデルを使って細部を保ったままノイズを大きく減らす機能もあり、高い ISO で撮った写真の使える範囲を広げています。
シャープネスとノイズ除去は、反対向きの処理です。片方を強めると、もう片方の弱点が出ます。
レンズ補正とトリミング#
レンズプロファイル は、レンズごとの歪曲収差・周辺減光・色収差(2 章)を記録したデータです。有効にすると、レンズの癖が自動で打ち消されます。9 章の建物の倒れは、変形(台形補正)のパネルで直します。
トリミングでは、構図を整え直し、傾いた水平線をまっすぐにします(14 章)。トリミングは画素を捨てる操作なので、大きく切り取るほど画素数は減ります(3 章)。
部分補正#
ここまでの調整は、写真全体に同じようにかかります。部分補正 は、写真の一部だけを選んで調整する機能です。
- ブラシ — なぞった範囲だけを調整します
- グラデーション — 片側から徐々に効きが弱まる範囲を調整します。明るすぎる空だけを暗くするのに使います(8 章のグラデーション ND フィルターと同じことを、あとから行うものです)
- 自動の範囲選択 — 空・人物・背景などを自動で見分けて選びます
暗室の時代から続く、見せたい部分を明るく(覆い焼き)、目立たせたくない部分を暗く(焼き込み)する手法も、部分補正で行います。人の目は明るいところへ引き寄せられるので、主役を少し明るく、周辺を少し暗くするだけで、視線を導けます(14 章)。
書き出し#
現像が終わったら、写真を JPEG などの一般的な形式で書き出します。
| 設定 | 目安 |
|---|---|
| 形式 | JPEG(Web・SNS・共有)。さらに編集するなら TIFF や 16 bit の形式 |
| 色空間 | sRGB(Web・SNS)。印刷所の指定があれば Adobe RGB(12 章) |
| 大きさ | SNS なら長い辺 2000〜4000 画素程度。印刷なら縮小しない |
| 画質 | JPEG の品質 80〜90% で、見た目の差はほとんどなく、大きさは半分以下に |
書き出す大きさに合わせて、最後にもう一度だけ軽くシャープネスをかけると、縮小したときの甘さを補えます。
プリセットと一貫性#
調整の組み合わせを保存しておき、ほかの写真にも同じようにかけられるのが プリセット です。同じ日、同じ場所で撮った写真に同じプリセットをかけると、色と明るさがそろい、1 枚ずつではなく一連の写真としてのまとまりが生まれます。
ただし、写真ごとに露出や光は少しずつ違うので、プリセットは出発点です。ホワイトバランスと露光量は、1 枚ごとに見直すのが基本です。