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写真のしくみ
  1. 序 はじめに
  2. 01 カメラという装置
  3. 02 レンズ
  4. 03 センサーと画質
  5. 04 ピントとオートフォーカス
  6. 05 露出と段
  7. 06 絞りと被写界深度
  8. 07 シャッターと時間
  9. 08 測光とヒストグラム
  10. 09 焦点距離と遠近感
  11. 10 自然光
  12. 11 ストロボと人工光
  13. 12 色
  14. 13 RAW 現像とレタッチ
  15. 14 構図
  16. 15 アングルとショットサイズ
  17. 16 ポートレート
  18. 17 風景
  19. 18 夜景と星
  20. 19 物撮りと料理
  21. 20 スナップ
  22. 21 動きもの

第 2 部 露出

6 章 絞りと被写界深度

絞りは光の量と同時に、ピントの合う範囲の厚みを決めます。その厚みを決める 4 つの変数と、ボケの形、絞りすぎたときに起きることを扱います。

光の一本道のうち、この章の範囲

  1. 光
  2. レンズ
  3. 絞り (この章で扱う)
  4. シャッター
  5. センサー
  6. 現像

この章でわかること

  • F 値が何の比で、なぜ数字が大きいほど暗いのか
  • 被写界深度を決める 4 つの変数(F 値・焦点距離・距離・センサーサイズ)
  • 過焦点距離を使って、手前から無限遠までピントを合わせる方法
  • 玉ボケや光条の形が、絞り羽根から決まる仕組み
  • 絞り込むほどシャープになるわけではない理由
この章の見出し(6)

絞り は、レンズの中で光が通る穴の大きさを変える仕組みです。何枚かの薄い金属の羽根(絞り羽根)が重なって穴を作り、羽根を回すと穴が大きくなったり小さくなったりします。1 章のピンホールの穴の大きさを、レンズの中で自由に変えられるようにしたものと考えてみてください。

5 章で見たとおり、絞りは明るさを決めます。そして同時にもう 1 つ、ピントの合う範囲の厚みも決めています。この章の主役はこちらです。

F 値#

F 値 は、焦点距離を、穴(開口)の直径で割った値です。

F 値 = 焦点距離 ÷ 開口の直径

50mm のレンズで開口の直径が 25mm なら f/2、12.5mm なら f/4 です。割り算なので、数字が小さいほど穴は大きく、明るくなります。f/1.4 は大きく開いた状態、f/16 は小さく絞り込んだ状態です。

なぜ焦点距離で割るのか#

同じ直径 25mm の穴でも、50mm のレンズと 200mm のレンズでは明るさが違います。焦点距離が長いほど、光はセンサーまでの長い距離で広がって薄まり、像が暗くなるからです。焦点距離で割った F 値なら、どんなレンズでも同じ F 値は同じ明るさになります。f/4 と言えば、24mm でも 400mm でも同じ露出で撮れるのです。

1 段ずつの刻み#

光の量は穴の面積に比例し、面積は直径の 2 乗に比例します。面積を半分にする(1 段暗くする)には、直径を 1/√2、つまり約 0.7 倍にします。F 値はその逆数で、約 1.4 倍になります。

F 値f/1.4f/2f/2.8f/4f/5.6f/8f/11f/16f/22
光の量11/21/41/81/161/321/641/1281/256

1 つおきに見ると 1.4, 2.8, 5.6, 11, 22 と 2, 4, 8, 16 がそれぞれ 2 倍ずつになっていて、覚えやすくなっています。

そのレンズでいちばん大きく開けた状態を 開放 と呼び、その F 値を開放 F 値と言います。開放 F 値が小さい(明るい)レンズが、9 章で扱う大口径レンズです。

読み込み中…

開き具合 — 開口の面積 — 光条 —
f/5.6
7 枚
このレンズの開放は f/1.4 で、開放では羽根が完全に引っ込んで開口は円になります。1 段絞るごとに開口の直径は約 0.7 倍、面積は半分になります。玉ボケは開口の形そのもの、光条は開口の辺の数と向きで決まります。羽根の枚数を偶数と奇数で切り替えて、光条の本数がどう変わるかを数えてみてください。丸みのある羽根は f/2.8 まで開口が円になり、それより絞ると角の丸い多角形に戻っていきます。辺が弧のあいだは、光条は扇形に散ってぼやけます。

被写界深度#

被写界深度 は、ピントが合っているように見える前後の範囲です。

「合っているように見える」という言い方をするのは、厳密にピントが合う面は 1 つしかないからです。その前後にあるものは、点が小さな円に広がって写ります。ただ、その円が十分に小さければ、人の目には点と区別がつきません。点と見なせる円の大きさの限界を 錯乱円 と呼び、フルサイズでは 0.03mm 前後とするのが慣例です。この大きさに収まる範囲が、被写界深度です。

被写界深度の模式図 カメラ ピント面 ここだけが厳密に合う ぼける ぼける 点と見なせる範囲 被写界深度 手前の限界 奥の限界
厳密にピントが合う面は 1 つしかありません。その前後にも、ぼけてはいるが点と見なせる(許容錯乱円に収まる)範囲があり、それが被写界深度です。ですから「合っている/いない」の二択ではなく、どこまでを許すかの問題になります。深度はピント面の手前より奥のほうへ広く伸びます。

被写界深度が浅いと、ピントを合わせたものだけがくっきりして、背景や手前が大きくぼけます。深いと、手前から奥までくっきり写ります。

深度を決める 4 つの変数#

被写界深度は F 値だけでは決まりません。効いているのは次の 4 つです。

  1. F 値 — 小さい(開ける)ほど浅い
  2. 焦点距離 — 長いほど浅い
  3. 被写体までの距離 — 近いほど浅い
  4. センサーサイズ — 大きいほど浅い(同じ画角で比べたとき)

下のシミュレーションで、4 つを別々に動かしてみてください。下端の数値は幾何光学の式で計算した正確な値で、画面のぼかしも同じ式から描いています。

読み込み中…

f/2.8 50mm 5.0m 被写界深度 — 深さ — 過焦点距離 — 30m 先のボケ径 —
f/2.8
50mm
5.0m
フルサイズ
被写体
9 枚

はじめの 2 つのプリセットは F 値も距離も同じで、焦点距離だけが違う組み合わせです。背景のボケ径が何倍になるかを数字で見比べてみてください。4 つ目は 1 つ目とほぼ同じ画角を APS-C で写したもので、同じ f/2.8 でもボケは小さくなります。
画面のぼかしは、数値と同じ幾何光学の式で画素ごとに計算しています。奥の灯りの玉ボケは、開放(f/1.4)で円、絞ると羽根の枚数の多角形になり、画面の隅では口径食でレモン形に欠けます。

とくに見落とされやすいのが、距離の効き方です。f/2.8 のまま被写体に半分の距離まで近づくと、深度はおよそ 4 分の 1 になります。「明るいレンズがないからボケない」と思ったら、まず被写体に近づき、背景を遠ざけてみてください。

実際の数字で見てみます。

条件被写界深度
85mm f/1.8、3m 先の人物約 14cm(顔が入るくらい)
50mm f/1.8、3m 先約 40cm
50mm f/8、3m 先約 1.9m(2.3m〜4.2m)
24mm f/8、3m 先約 1.3m〜無限遠
100mm マクロ f/8、等倍約 1mm

深度は奥へ広く伸びる#

被写界深度は、ピント面の手前と奥に均等に広がるわけではありません。ふつうの撮影距離では、手前に 1、奥に 2 くらいの割合で広がります。上の表の 50mm f/8 3m では、手前に 0.7m、奥に 1.2m です。

手前から奥まで深度に入れたいときは、いちばん手前と奥の中間ではなく、手前から 3 分の 1 くらいの位置にピントを合わせるのが目安になります。被写体に近づくほどこの差は小さくなり、マクロの距離ではほぼ前後均等になります。

過焦点距離とパンフォーカス#

ピントを遠くへ合わせていくと、あるところで深度の奥の端が無限遠に届きます。このときのピント位置が 過焦点距離 です。ここにピントを合わせると、その半分の距離から無限遠までが、すべて深度に入ります。

焦点距離f/8f/11f/16
16mm1.1m0.8m0.55m
24mm2.4m1.8m1.2m
35mm5.1m3.7m2.6m
50mm10.4m7.6m5.3m

(フルサイズ、許容錯乱円 0.03mm)

たとえば 24mm f/11 で 1.8m にピントを合わせれば、0.9m から無限遠までが深度に入ります。手前の花から遠くの山までをくっきり写す風景写真や、ピント合わせをせずにすぐ撮りたいスナップで使う方法で、こうして画面全体にピントが合った状態を パンフォーカス と呼びます(17 章・20 章)。

センサーサイズと「同じボケ」#

3 章で見たとおり、センサーが小さいと、同じ画角を得るのに短い焦点距離を使います。焦点距離が短いぶん、同じ F 値でも深度は深く、ボケは小さくなります。

APS-C で 35mm f/2.8 を使うと、画角はフルサイズの 52mm 相当になります。このときのボケの大きさと深度は、フルサイズの 52mm f/4.2 とほぼ同じです。F 値にもクロップファクター(1.5)を掛けると、フルサイズで同じ写りになる値が分かる、ということです。これを 等価換算 と呼びます。シミュレーションの 4 つ目のプリセットで確かめられます。

スマートフォンのセンサーは小さく、クロップファクターは 3.5〜7 程度です。レンズの F 値は f/1.8 のように明るく見えても、ボケの大きさはフルサイズの f/6〜f/13 程度にしかなりません。ポートレートモードがボケを計算で合成しているのはこのためです。

ボケの形と質#

ボケ は量だけでなく、形や質も写真の印象を変えます。

玉ボケは絞りの形(Google 画像検索)#

背景の街灯やイルミネーションのような小さな光は、ぼけると円盤状に広がります。これが玉ボケで、その形は絞りの開口の形そのものです。開放では羽根が引っ込んで丸く、絞ると羽根の枚数の多角形になります。上の絞り羽根のシミュレーションで、羽根の枚数を変えると玉ボケの角の数が変わることを確かめてみてください。

羽根の縁を曲線にして、絞っても円に近い形を保つようにしたものが円形絞りです。ボケを丸く保ちたいレンズの多くが採用しています。羽根の縁の弧は、ある絞り(レンズによって違いますが、開放から 2 段前後)の穴にぴったり合う大きさで作られています。そこまでは開口がほぼ円になりますが、さらに絞ると同じ弧が短い辺として並ぶので、角の丸い多角形に戻っていきます。円形絞りでも、f/16 まで絞れば玉ボケにはうっすら角が出ます。シミュレーションで「丸みのある羽根」を選んで、絞りを動かしてみてください。

画面の隅のボケは欠ける#

画面の隅の玉ボケは、レモンや猫の目のような形に欠けて写ります。斜めから入った光の一部が、レンズの前後の枠に遮られるからです。これが 口径食 で、2 章の周辺減光と同じ原因から来ています。開放でいちばん強く、1〜2 段絞ると丸く戻ります。被写界深度のシミュレーションでも、開放にすると画面の隅の玉ボケが欠けるのが見えます。

前ボケと後ボケ#

ピントより奥のものがぼけた後ボケに対して、手前のものがぼけたものを 前ボケ と呼びます。花や葉の手前にカメラを近づけて撮ると、画面の縁に柔らかい色のにじみが入り、のぞき見るような奥行きが出ます。

同じレンズでも、前ボケと後ボケでは柔らかさが違うことがあります。2 章の球面収差の残り方で、一方は縁がくっきりした硬いボケに、もう一方は縁の溶けた柔らかいボケになるのです。後ボケの輪郭が二重に見えるものを 二線ボケ と呼び、背景がうるさく見える原因になります。

ボケで被写体を浮かび上がらせる#

背景が大きくぼけると、ピントの合った被写体だけが背景から切り離されて見えます。これを 被写体分離 と呼びます。人物や物を主役として見せる、もっとも基本的な方法です。

ボケの大きさを決めるのは、深度を決めるのと同じ 4 つの変数ですが、もう 1 つ効いてくるのが被写体と背景の距離です。背景が被写体のすぐ後ろにあると、どんなに開けてもあまりぼけません。人物を壁から離して立たせるだけで、背景は大きくぼけます。

絞りすぎると何が起きるか#

絞ると深度が深くなり、2 章で見た収差も減ります。ここまでは、絞るほど写りがよくなります。ところが絞りすぎると、今度は画面全体がわずかに甘くなっていきます。

原因は、1 章のピンホールで見た 回折 です。穴が小さくなると、光が縁で回り込んで広がり、点が点として結ばれなくなります。この広がり(エアリーディスク)の直径は F 値に比例し、f/8 で約 0.011mm、f/16 で約 0.021mm です。フルサイズ 2400 万画素のセンサーの画素の大きさは約 0.006mm なので、f/16 では 1 点が画素 3〜4 個ぶんに広がることになります。

絞りの値と、像のにじみの大きさ 大きい 小さい にじみ f/1.4 f/2 f/2.8 f/4 f/5.6 f/8 f/11 f/16 f/22 画素の大きさ(2400 万画素のフルサイズ) 収差によるにじみ 回折によるにじみ 合計(いちばん低いところが最もシャープ)
開放付近では収差が、絞り込むと回折が、像をにじませます。2 つを合わせたにじみがいちばん小さくなるのは、フルサイズでは f/5.6 前後です(レンズによって前後します)。f/16 より絞るとにじみが画素の数倍になり、等倍で見ると全体が甘く見えます。回折の曲線は物理の式から、収差の曲線は典型的なレンズの傾向から描いた目安です。

収差によるにじみと回折によるにじみを合わせると、いちばんシャープに写る絞りが見えてきます。フルサイズのレンズなら、多くは f/5.6 前後です。

光条(Google 画像検索)#

街灯や太陽のような強い点光源を、絞り込んで写すと、放射状の光の筋が伸びます。これが 光条 です。光が絞りの開口のまっすぐな辺で回折して、辺に垂直な向きに伸びることで生まれます。

光条の本数は、絞り羽根の枚数で決まります。まっすぐな辺で回折した光は、辺に垂直な向きへ、辺の両側に 1 本ずつ伸びます。つまり 1 つの辺から、正反対の向きに 2 本の筋が出ます。

羽根が偶数枚だと、開口の多角形には向かい合う辺の組ができます。向かい合う 2 辺は平行なので、その 2 本ずつの筋はまったく同じ向きに重なり、本数は羽根の枚数と同じになります。奇数枚の多角形には平行な辺の組がなく、ある辺の反対側には角が来ます。筋は重ならずにすべて別々に出るので、本数は枚数の 2 倍です。6 枚羽根なら 6 本、7 枚羽根なら 14 本、9 枚羽根なら 18 本です。8 枚羽根(8 本)より 7 枚羽根(14 本)のほうが本数が多くなるのは、このためです。絞り羽根のシミュレーションで、羽根を 1 枚ずつ増やして数えてみてください。

光条をはっきり出したいときは、f/11〜f/16 まで絞ります。開放付近では開口が丸いので出ません。円形絞りのレンズは辺が弧になっているので、光条は柔らかく、ぼんやりしたものになります。弧の上では場所によって辺の向きが少しずつ違うため、回折した光が 1 本の筋に集まらず、扇形に散ってしまうからです。開放から 2〜3 段の範囲ではほとんど出ず、大きく絞って辺がまっすぐに近づくほど、細い筋が戻ってきます。

光条を出したいときは解像のピークより絞ることになるので、2 つは取り合いになります。夜景で光条を主役にするなら絞り、建物の細部を見せたいなら f/8 前後にとどめる、という判断になります。

絞りの選び方#

撮りたいもの絞りの目安理由
背景を大きくぼかしたい人物開放〜f/2.8被写体分離
複数人の集合写真f/5.6〜f/8前後の列まで深度に入れる
料理・小物f/2.8〜f/5.6主役の手前から奥まで、背景はぼかす
風景f/8〜f/11深度と解像のバランス
夜景の光条f/11〜f/16光条を出す
暗い場所で手持ち開放シャッター速度を稼ぐ(7 章)

絞りは、明るさを調整するためのつまみであると同時に、何をくっきり見せて何をぼかすかを決める、写真の印象にもっとも大きく効くつまみです。5 章の絞り優先モードがよく使われるのは、このつまみを自分の手元に置いておくためです。